若田部昌澄「民主党で大恐慌?」とケインズの闘い

 数日前にここhttp://d.hatena.ne.jp/tanakahidetomi/20090211#p1で紹介した『Voice』三月号のうち、若田部さんの「民主党大恐慌?」(http://news.goo.ne.jp/article/php/politics/php-20090226-01.html)が評判をよんでいるとさきほど友人から教えていただきました。確かに論説の題名で検索したら掲示板中心にネットで多く言及されてるようです。


 若田部さんの民主党への直言は厳しいものが確かにあります。過去の英労働党による大恐慌の引き金が、厳格な財政均衡論的イデオロギーと「金の足枷」に固執したイングランド銀行の組合せで生じたことが、歴史の教訓として提示されています。

危機のときに緊縮政策はとらないだろうとは思いたい。しかし民主党の一部には不況促進的経済イデオロギーの影響が感じられる。さすがに最近は影を潜めているものの、民主党には「景気回復のために金利を上げよ」という議論を唱えてきた人々がいるし、増税による財政再建論も根強い。いま財政金融の引き締めをしたら、確実に大恐慌の二の舞である。そこまでいかなくとも危機に必要な政策対応が遅れる危険性はある。

 ここらへんのエピソードを、政党の動きよりも、経済学者の「闘い」に焦点を絞って論じたのが、かってメールマガジン「日本国の研究」に連載され、後に単行本になった『経済学者たちの闘い』でした。以下ではメールマガジンの過去ログが一部残っているので読めます(確か連載のは削除するよう頼んだ記憶が 笑)。


「エコノミックスの考古学 第11回 1925年春の敗戦:30代のケインズ
http://www.inose.gr.jp/mailmaga/mailshousai/2002/02-4-10.html

「インフルエンザの流行で命を奪われるのが心臓の弱い人だけであるからといっ
て、インフルエンザは‘いいことずくめ’であるとか、あるいはその病気が死
亡率と無関係であるのはメキシコ湾流が死亡率と無関係なのと同じだ、という
ことは許しがたい」(『ケインズ全集』第9巻、248頁)。ここにはデフレ
政策を意図的に追求することで「構造改革」を推進しようとする議論に対する、
ケインズの気持ちの高ぶりがうかがわれる。

 では、金融政策はどのように関係しているのだろうか。ケインズは、石炭産
業を例にとって、まさに相手の土俵で論戦を挑む。

 確かに石炭産業は過剰な人員を抱えている。しかも、その産業での雇用は増
え続けている。この産業で徹底的に賃金を切り下げ、合理化を進めても解決に
はならない。なぜなら「労働者をこの産業から他の諸産業に吸収するというこ
と以外に、救済策は存在しない」からだ。だが、「そのための必要条件は他の
諸産業が好景気にあることである」(262頁)。金本位制復帰にともなう金
融引き締め政策は、他の諸産業の拡張を抑えることで、衰退産業からの資源の
円滑な移転を阻害してしまうのである。

 ここ最近の僕の一連の不況の下での雇用流動化論への批判も、基本的にこのケインズの石炭産業の例と同じ趣旨のものですね。


 さて、これが書かれたときを上回る状況がいま目前の危機といえますね。財政再建主義と中央銀行のデフレ志向に「敗戦」することは許されないでしょう。


 ところで『経済学者たちの闘い』はどこかで文庫化してくれないかな? 

経済学者たちの闘い―エコノミックスの考古学

経済学者たちの闘い―エコノミックスの考古学