本間龍『電通と原発報道』

 本書は出た直後に読んでこれまたTwitterや講義なんかで話してしまい安心して(笑)ブログに感想を書き漏らしたもの。まあ、すべて読んだものをブログに書くつもりはないが重要なものはやはりチェックしておきたい。

 ガルブレイスが『ゆたかな社会』の中で、媒体での宣伝を利用して大企業が消費者を誘導し、そのために私的な消費部門が膨張して、必要な公的部門が排除されていくという「理論」を提起したことがあった。

 今日、電通をめぐるいくつかの本は、このガルブレイス的な見地の延長ともいえ、大企業が媒体を通じて消費者の関心を一定方向に誘導し、それが人々の関心の配分を歪めてしまうということだろう。

 電通問題については、かって田原総一郎氏の『電通』があり、僕も学生の頃に読んだ。最近では、苫米地英人氏の『洗脳広告代理店電通』が上のガルブレイス的な発想の延長であろう(前半は電通にほとんど関係ないし、できもいい本ではない)、またちょっと前には『電通の正体』という本もでた(未読)。

 本書は著者が博報堂の社員だっただけに記述が具体的であり、また多くのデータが開示されていて便利である。

 東電と新聞の広告やテレビCMとの間に介在する電通が、その代理人の能力を活かして、東電に不利な情報を排除し、また有利な情報のみを提供してきた、その功罪について地味だがデータをもとに説得的な議論をしていると思う。特に第四章と第五章は広告費の仕組みや、クライアントとの関係を数字をもとに語りかなり興味深い。

 類書がともかく乏しい中では貴重な貢献である。

電通と原発報道――巨大広告主と大手広告代理店によるメディア支配のしくみ

電通と原発報道――巨大広告主と大手広告代理店によるメディア支配のしくみ