重松清『日本の課長』&『ステップ』

 最近文庫化された、重松氏の小説『ステップ』はなかなか面白かった。重松氏の作品は、04年ぐらいに『週刊東洋経済』で書評を書いたことがある。このブログが始まる前なので再録していないので以下にコピペ。

『日本の課長』
重松清

 サラリーマンの本音を聞くことは難しい。特に中間管理職の代表である「課長さん」の仕事の中味や職場の人間関係についてのリアルな発言を拾うことは至難の業である。
 なぜならどんなに形骸化していてもとりあえずは管理職であるため、妙な自制心が「課長さん」に働いてしまう。冒険がないので会社代表の発言のようになってしまい魅力が乏しい。またサラリーマンの実名入りの取材では普通なことであるが、取材した会社側の校閲を何回も受けるので、その面でも感情的な本音が吐露しにくくなっている。
 そのため従来のサラリーマン取材ものでは圧倒的に匿名記事が面白い。またそもそも「課長さん」は話を聞いてもつまらないというのが定説なので、「課長さん」だけを取り上げたものがない。本書は、この未開の地である「日本の課長さん」の知られざる領域に果敢に突入したルポになっている。
 では、本書は「課長さん」の本音にどの程度迫っているだろうか。本書に登場する「課長さん」は、みんな逆境にめげずやる気満々な人たちである。銀行の再編に挑む課長さん、地域振興や児童虐待対策に頑張る課長さん、元人気ラガーマンや甲子園の元ヒーローの課長さん などの元気のでる話がてんこ盛りである。読後感は爽快であり、「課長さん」もなかなかやるじゃん、と思ったりもする。『定年ゴジラ』や『お父さんはエラい!』などで、ただのおじさんの生態を描き続けてきた著者ならではの書きっぷりともいえる。
 ただ評者のような脱サラ経験者のやぶにらみからすると、本書でちらっと出てきた社員の動向を経営陣に密告する女性社員や苦情電話の対応で泣きす年配の男性社員たちの「本音」の方が聞きたい気になってしまう。彼らはなんで「課長さん」になれなかったのだろうか。

ニッポンの課長

ニッポンの課長

ステップ (中公文庫)

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