馬淵澄夫・野田佳彦・海江田万里in『文藝春秋』

 『文藝春秋』での事実上の民主党代表選の政策構想の開陳(馬淵、野田両氏)と現在の政権への批判(海江田氏)それぞれの論説あるいはインタビュー記事です。僕はいかなる政治家でも政治勢力でもここで再三立場を明言していますが、いまの日本の長期停滞をリフレーションを第一に処方する立場の人・組織を応援します。なのでここでは馬淵さんの主張を中心にみることをお断りします。

 僕が関心のあるのは、やはりマクロ経済政策中心の構想です。馬淵さんの政権構想には経済発展のためのエネルギー構想、社会保障改革、TPPについての見解など多様な論点を含みますが、ここでは省略します。

 馬淵さんのは詳細についてはここでもとりあげましたが、この記事では以下のように発言しています。

「すなわち、復興までの長い道のりの間に、経済成長を前提とした「デフレ脱却」の政策を掲げていく。今後は、前述したようなエネルギー政策を筆頭とした経済政策を実行することで、景気を反転させ、国民の所得を増やしていかないといけない。そのためには15年間に及ぶデフレから脱却することが必要条件だ。インフレ期待を高めるには、金融機関に積極的に融資してもらい、企業の設備投資を増やさなければいけない。結局は、金融政策として「量的緩和」を実行するしかないわけだ。ところが、世界中がお金の流通量を増やしているにも関わらず、日本だけがマネタリーベースを下げ続けている。これでは円高を引き起こすのも当然ではないか。輸出企業が四苦八苦している円高を解消し、デフレから脱却できれば、企業からの税収は増え、従業員への再分配も行われるのである」。

 正しい政策観です。ここでは一部でしかふれていない経済発展のための長期的なビジョンと、このデフレ脱却のための金融政策の変更という目前のリスク回避が、整合的に語られていると思います。

 他方で、野田財務大臣のように増税ありきの議論(しかも彼は財務省があえて三年間だけ試算している妙なシュミレーションに依存して、成長したりデフレ脱却しても財政が改善されないというへんな主張をしています。財務省の試算にのってさえ、三年目以降は財政が改善されていくのですが? 野田大臣のこの論説どおりだとすれば、デフレ脱却や成長率を高めることさえも財政再建という彼の目的にはかえって有害というすごい帰結がでてきかねません)とは比較にならないでしょう。

 しかしメディアはあいかわらず、小沢vs反小沢とかの空洞化した議論で、この種の政策論争もみなしてしまいます。一回だけ国会の中で記者会見に同席したのですが、記者の人たちの生気のなさは異常なぐらいです。そこではデフレ脱却についての記者会見なのですが、質問がなぜかやはり「小沢vs反小沢」というぜんぜん関係のない話題をいうのです。政策問題への関心や理解が低い以前に、精神的な腐敗臭すら記者たちからは感じました。たぶんどんな政治的話題でも此の二元論でみているのではないでしょうか? さすがにそのとき会見側にいた松原仁議員がその記者をたしなめていましたが。

 おそらく最近のメディアをみると、この種の二元論(メディア側の不勉強または空気的な議論)を打ち破るのは、大連立みたいなものなんでしょう。大連立をすれば幻想的にはすべての対立がなくなるとでも思っているのでしょう。ただの問題の焼け太りで、歴史的にも日本の政治がやきがまわるとこの種の政治的都市伝説がでていますが。政策論議を真剣に議論しないのは、政治家ではなく、もっぱら報道する側である、というのが政治家の人たちの意見をフォローしているここ数年にきがついたもっとも重要な日本の病理的側面といっていいでしょう。

文藝春秋 2011年 09月号 [雑誌]

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