石橋湛山の外交戦略by姜 克實

 姜 克實先生は尊敬している思想史研究者です。特に石橋湛山研究では毎回示唆を得ることが大きいのです。今回の『週刊東洋経済』の論説「紛糾する対中関係どう構築し直すか」も勉強になります。

 尖閣諸島問題で最大の問題は、それが「国民感情の対立、ナショナリズム合戦に拡大したこと」と姜 克實先生は指摘します。そして湛山が生きていれば、1)国民にナショナリズムの自粛を呼びかけ、2)相手の懐に飛び込んで誠意を持って誤解の解消に努める、3)国際社会の正常運営のため、まず自国の欲望を抑制する、などを主張すると述べています。おそらくそうでしょおう。

 ナショナリズムは自国本位の教育の産物であり、国境・民族が存在するときにこれを教育で抑制するのは不可能だろう。となると国際間のナショナリズムの対立を避け、できるだけ外交問題は外交の場で解決し、国民の感情に任せないことである、と姜 克實先生は指摘しています。

 しかし問題の核心は、国民感情を刺激することを外交カードや人気取りに利用している政治屋が存在していることが問題の核心であると。

 「感情対立の発生は、政治家の不謹慎の結果であり、失政の象徴である」と姜 克實先生は手厳しいです。

  湛山の国際関係の閉塞打破への提言はこうでした。
 「疑心暗鬼の多くが誤解に基づくもので、その原因を、互いに相手を正しく理解できず、また互いに誤解さええるようにしていると指摘した。前者に対しては謙虚な低姿勢を要請し、後者に対してはなんでも相手の気に入るようなご機嫌とりの「迎合」姿勢を戒めた」。

 小国主義は、国家を前提にしている点ではナショナリズムでしょう。姜 克實先生は指摘されているように、小国主義は、自国の欲望の統制、規制と国際社会への協調の特徴によって、また経済合理性にも支えられていました。

 他方で、東アジア共同体論を姜 克實先生は手厳しく批判しています。この点も僕は賛同します。この東アジア共同体論のベースには、「戦略的」構想が伏在し、地域覇権の思想と無縁ではないと思います。そのような地域覇権を湛山は批判していました。

 これは先日、河上肇賞の選考会でお会いした川勝静岡県知事が話された言葉ですが、「戦略的互恵関係ではなく、友好的互恵関係が大切である」ということにもつながるでしょう。川勝氏は10月に中国側が望まないというメッセージを発したのにもかかわらず、訪中したところ、大変な歓待をうけたそうです。

 中国の訪中拒否のメッセージを拒否し(湛山の「不迎合」)、訪中して互いに膝を交えて話す(湛山の「膝を付き合わせる」と同じ)。この姿勢はたしかに大切です。

 川勝知事、いや川勝先生の放言には慣れていましたが(笑 なるほど湛山の血が生きている、早稲田の伝統ぽいものはあるのかもしれない(なくてもいいのですが 笑)。それを活かすのがいまだ、と思いました。