堀江貴文・勝間和代『嫌われることを恐れない突破力!』

 僕も子供のころから集団活動になじめず、目立つことが悪のような環境が、学校から社会へと、基本的にいまでも続いているような気がしている。いわゆる「出る杭は叩かれる」というものだ。多くの日本に住む人たちは多かれ少なかれそう感じているのかもしれない。本書は「出る杭」としては論壇屈指の強豪?である勝間さんとホリエモン氏との対談を、田原総一郎氏が話題の媒介や解説役にまわって、この二人の「出る杭」としてのいままでの人生行路、そして現在の社会への視座を明らかにして、この閉塞した日本社会をいかに明るく突破していくかを語った対談本である。

 ホリエモン氏はライブドア事件のときに散々テレビなどで報道され、また勝間さんについてはその著作をまめに読んでいるので、最初のおふたりの人生行路は、僕にはかなり既知な話題ではあった。しかし勝間さんは理詰めで選択していくのだが、ホリエモン氏はスーパーロジカルシンキングで決断していくというふたりの個性が、意外とふたりの育った環境からはさほど影響をうけていないように思える。勝間さんの方は、子供もころは「ぼー」としている感じで、ホリエモン氏の方は絶えず周囲についてきめ細かくチェックしている子供みたいな感じだ。いつからその個性が変容したのかは、確かにこのふたりの人物像を考えるときにキーになるかもしれない。

 ふたりの談議が精彩を帯出すのは、後半に入ってからだ。まず勝間さんが日本社会の低迷を、デフレと団塊世代の責任にすることころは興味深い。それは論理的なのだが、それをうけてホリエモン氏はスーパーロジカルシンキングで返すあたりは面白い。

「勝間 働く人口が減って養う人口が増えたうえ、彼らが20年間あまりにも権力を持ちすぎてから、続く世代はリソースやチャンスを十分に与えられなかった。団塊の世代は人数が多いから、いろいろなものが彼らに合わせて設計されてしまうわけです。

 堀江 僕、最近よく言っているんですけど、団塊の世代って、一見するとなんか中途半端でガッツがないように見えて、実はものすごく脂っこいんですよね」

ここで勝間さんのいい意味での「いじられ体質」がでていき、ホリエモン氏の超論理にひきずられていき、本書を通して、ふたりが田原氏もまきこんで、超論理側にしばしば流れ行くのは面白い読み物になっているだろう。

 さて本書では、後半とくに、中小企業論と農業の成長性についての議論が面白いだろう。こうまでホリエモン氏が農業問題に関心が深いことは僕は知らなかった。また両者の中小企業論は、世代論のある意味で裏返しでもあり、なぜこうまで日本では既得権層が強く残存しているのか、古い世代が新しい世代を「出る杭」のように叩くことが容易な環境ーデフレと構造的な問題ーが、ここ20年も継続していることが問題かがふたりの対談でわかるだろう。デフレ対策と構造問題の解消は、本書で勝間さんがいうように同時に追求されるものだろう。少なくとも前者についてホリエモン氏は本書では肯定も否定していず、後者については賛同しているようだ。実際にデフレ克服も徹底した構造問題の解消も、日本では「異端」である。日本は既得権(官僚や、本書でも徹底的に槍玉にあがっている大銀行など)が喜ぶ環境(デフレと各種規制の)が続いている。多くのマスコミの論者たちは、事実上さまざまな官庁や財界の意見をただ単に微修正して世の中に伝えているだけだ。その中でこのふたりのような存在は確かに日本では「嫌われる」にちがいない。所属する集団から「嫌われる」ことの恐ろしさは否定できない。しかしこのふたりの楽観性と見通しは読者にその恐怖への抵抗力のいくばくかを与えてくれるだろう。

 今日、勝間さんの事務所を訪問したときに頂戴した。感謝します。