肩を痛めてから一人の食事はほぼ外食。で、近所のファミレスにいくと読売新聞の無料サービスがあるのでそれを頂戴する。読売新聞は先日の竹森俊平氏もそうだが、今回の猪木武徳氏のように重厚な経済学者に論説を書かせているので面白い。これは「解題新書」という新書をまとめて紹介するコーナーでの記事だ。もちろんただ単に新書を紹介するだけではなく、猪木氏の現在の日本外交の在り方への厳しい評価が読みとれる。
ここでは特に最近の尖閣諸島・北方領土問題についての日本政府の外交への態度への自省が求められている。
「自戒すべきことのひとつは、日本側の態度であろう。卑屈な態度が相手をますます尊大にさせるのは、外交も人間関係も同じである。そして日本人と中国人の容貌の似ていることや歴史的な関係の深さから生まれる「無防備さ」も取り除かねばならない。同じく重要なことは、外交が世論への過度な配慮や国民への一時的な迎合に支配されてはないらないということだ」
その上で、戸部良一氏の『外務省革新派』(中公新書)を引き、そこでの世論への迎合の問題性を歴史的に指摘していく。戸部氏の本は未読なので近いうちに読んでみたいものである。むしろ世論に引きずられず、外交はプロにまかせるべきだ、という猪木氏の示唆は先日ここでも紹介した姜 克實氏の指摘と重なる。
猪木氏は得意技?の福澤諭吉を援用して、「世論」「権威」に引きずられるのは、「独立自尊」の精神に欠けているからだという。外交だけではなく、地方自治も同様の問題を抱えているという。中央の「権威」にひきずられているというのだ。
さらに猪木氏は地方自治こそ外交の「調練」の基礎である、とした福澤諭吉の『分権論』(明治10年)の言葉を引いている。これはなかなか面白い。まず身のまわり→地方分権→外交 という段階を踏んで、「独立自尊」の精神を鍛える。精神の中味は西欧的ともいえる個人の確立だが、その「調練」の階梯には、儒教的なものを感じる。
福澤の複雑な思想の中で、今日の外交問題を読み解く、そのような読書の快楽(けらく)をもたらす好書評である。
(参考)猪木氏の福澤論は以下で読める
- 作者: 猪木武徳
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2001/07
- メディア: 単行本
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