石橋湛山の経済政策by若田部昌澄

 『週刊東洋経済』の特集「石橋湛山が今、首相ならこうする」での若田部さんの論説を拝読しました。石橋湛山賞の受賞者でもあり、その受賞の講演(『経済倶楽部講演録』所収)でも、まさに現時点での湛山の経済思想の一番深い理解者であると思われる若田部さんの主張が明瞭に述べられています。もちろんこれだけで若田部さんの湛山の経済政策についての見解が尽きているわけではありませんがとても勉強になるものです。

 「湛山は絶望的な状況でも決して絶望することはなかった」

という湛山の人物評価は僕も大きく賛成します。僕もできればそうありたいですが。

 若田部さんは多様な側面から湛山の言説と現在の問題とをクロスさせています。日本経済の「根本問題」だけ見てしまう根本病を日本人の病理だとした…。湛山が示唆したように、いまのデフレ不況にも政府と日銀が一体となってのマクロ経済政策、通貨安競争についての湛山の当時(昭和恐慌期)での指摘はそのままいまの問題にもつながります。この点での若田部さんの発言は明瞭です。

「単に自国通貨を人為的に為替介入で切り下げることは望ましくない。しかし、自国の金融緩和の結果として、為替は切り下がる傾向に行く。これは為替レートが通貨の相対量で決まるのだから当然の話だ。金融緩和を伴う通貨安競争は、不況からの脱出にとって必要なことである」

 また財政赤字の解消、悪性インフレの予防、人口問題(昔増加、いま減少)への対策などもあわせて湛山の見解から現在をみています。もちろん湛山は完全ではなかったことにも留保し、そこからの示唆も汲み取ろうとしています。湛山がなにものであるか、を知るには最適の論説です。