安達さんの『恐慌脱出』が政策分析ネットワークのシンクタンク賞を受賞されましたので記念に、同書の内容を今一度振り返りたいと思います。
本書の目的は、戦前の「恐慌型不況」を参考に、今日の世界的な経済危機への対処の仕方を学ぶという歴史的アプローチが大きく採用されていることにあります。安達さんが同書を書かれた時点(09年後半)で、「筆者は、現在の世界経済は、ようやく大恐慌の入口に立ったところだと考える。略 有効な経済政策が打ち出されなければ、これから世界経済は、大恐慌並みのさらなる景気の加速度的な悪化に見舞われる可能性が高い」と指摘しています。世界が財政規律を意識し、財政政策の手じまいと財政規模の縮小を行い、また新興国やアメリカにも不安材料が積載、また日本も円高不況の影におびえている中、この安達さんの懸念はいまだに継続中であり、それが次第に顕在化する予感が強くあります。少なくとも09年後半よりも将来展望はいまは暗いのではないでしょうか?
第1章ではリーマンショックの内実とそれが実体経済にどのような影響を及ぼすのかがするどく整理されています。金融取引の大部分は企業同士の相対取り引きで行われますが、このとき相手方の経営破たんなどで契約不履行になるリスクを「カウンターパーティリスク」といいます。リーマンブラザーズの破たんはこのリスクによる金融市場の連鎖的な機能不全が直接の原因でした。安達さんはこの危機の連鎖システムを詳細に9個の局面にわけて解説しています。ここらへんの記述は実に簡潔で丁寧なのでぜひお読みいただけるといいと思います。
第2章では、過去の世界危機のうち、1907年恐慌の今日的な意義について再考しています。1907年恐慌と今回の危機との類似点は、金融危機が国際金融市場を中心に伝播したことであり、その直接の原因はロンドンでの金利上げにあったこと、このために金本位制の下で各国のマネーが大量にロンドンに流れることを恐れた各国政策当局の金利上げ競争が、世界経済波及の主因となります。これが当時の「信託会社」などの新しい金融取引を困難にさせ、金融取引のネットワークを崩壊させたことも、今日の「証券化商品」の破たんとまた連鎖的な金融システムの危機と並行的な議論が可能である、と安達さんは指摘しています。この07年恐慌からの脱出は、偶然の産物である南アフリカの新しい金鉱の発見とそれによるマネーサプライの増加という金融緩和であったことも示唆的です。
第3章では、30年代の世界恐慌の分析です。ここでも07年恐慌と同じで、景気過熱や「バブル」を退治するためと称する金融の「過度」の引き締めが、株価などの資産価格の暴落をうみ、それが家計や投資家などの膨大なキャピタルロスを生じさせ、景気を減速させるどころか崩壊させたことー「フィナンシャル・アクセラレーター」が金融要因として重要であると安達さんは指摘します。
これをさらに腑わけしてみると「デ・レバレッジ」効果がこの「フィナンシャル・アクセラレーター」の中核ともいえます。
「大恐慌の過程では、資産価格の暴落が起きると、金融機関がその資産構成を、現金や国債といった安全資産に変え、それがさらなる資産価格の暴落を招くケースが多い。そして、この資産価格の暴落が、投資におけるリスク回避的な行動をさらに強め、投資家は、過去に行った投資の回収や新規投資の抑制に動く。これには、資産価格の暴落が、将来における経済の成長期待を失わせ、投資に対する意欲を阻害する効果もあるだろう」
現在のアメリカも資産価格の暴落が金融機関のリスク許容度を低下させ、これが企業・家計の資金調達を困難にさせ、景気の加速度的(フィナンシャル・アクセラレーター)なものにしている点では類似している(もちろん安達さんは注意深く歴史がそのまま再現することはないと何度も注意書きを怠りません)。
続く
- 作者: 安達誠司
- 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
- 発売日: 2009/05
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