久しぶりにためになるマンガ評を読んだ。ためになるとは、主に二つの点である。ひとつは、いままでその価値(面白さ)や存在に気がつかなかったマンガを多く知ることができること、もうひとつは、従来から抱いていた自分の考えがちゃんとした表現で読めることの二点である。この二点で、僕にとっては、この『マンガホニャララ』は、南信長氏の『現代マンガの冒険者たち』以来の貴重な貢献となっている。
第一の点では『モジャ公』や『二十面相の娘』、それに『アステロイド・マイナーズ』がそうであったし、第二点では衿沢世衣子さんの『シンプル ノット ローファー』がキャラ中心ではなく個性中心を作者が意識的に採用してマンガを創作していること、漫★画太郎氏への評価、吉田戦車のギャグ漫画が古びないのは日本語の力に依存しているから、という卓見などである。また他方でこのブログかTwitterかで触れたが、僕は個人的に浦沢直樹氏がなぜ手塚治虫の後継として一部の批評家から持ち上げられるのかさっぱりわからず、むしろ批判的な言動を繰り返したが(ただ浦沢作品を全否定しているのではない)、本書では浦沢批判も主要な話題になっている。ただ僕は浦沢作品よりもそれを妙な文脈で持ち上げる批評家たちが問題ではないかと思っている。それはキャラ中心に安易に批評を構築する批評スタイルにもあてはまると思っている。
帯裏に書かれた内容紹介はむしろ余談に近く、本書はほかの内容のほうが実に面白い。また目次には載っていない作品の評価や情報の方がうれしかったりする。その意味ではちょっと編集に注文をつけたくなる気がしたが、それでも読んでしまえばこれほど面白いというか感性的に近いマンガ批評は先の南氏のもの以来久しぶりであって単純に嬉しい。
ところで作者は僕より11歳年下である。感性的には近いのだが、やはり本書を読むと微妙な年齢差を知って微笑してしまう。60−70年代にSFブームがあったらしいとか、作者が杉浦日向子をまずNHKのバラエティ番組で知ってそのあとでマンガ家として認知していくその順番などである。後者のケースは僕であればまず『ガロ』ぽい世界(小1からかなりの年数読んでたのだが、高校に入るころには不思議とあまり読まなくなってた。なのでガロぽい世界から…という表現をしてみた)からでてきた人というマンガ家としての印象が先行する。そうか、もうマンガを読んであと数年もすると半世紀になるのか、とやや涙目で思うのである 笑
こういうマンガ批評をもっと読みたい。

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