長谷川幸洋『官邸敗北』

 御本頂戴しました。ありがとうございます。

 本書は、鳩山政権と財務省との関係に特に注目しながら、さまざまな視点からいまの政権が財務省の協力→財務省の排除→財務省との敵対関係、とでも極端にいえば表現できる形で、権力の図式が変わるとともに、政権としての求心力を消失していく様子が描かれています。登場人物も有名無名含めて多彩で、読んでいると経済小説を読んでいるような気にもなってくるほど筆致がさえてますね。

 これを読んでいて思うことは、やはり法的根拠のない政策決定や政策形成の場など、ほとんど意味がない、ということです。例えば本書でも指摘されていますが、自公政権時代の経済財政諮問会議が廃止されたため、日銀との交渉の場どころか、各省庁や利害関係者との調整の場が実効性のあるものとしては不在だといういまの日本の状況は深刻でしょう。もう政権発足後、半年を軽く上回っているのにその状況には変化はありません。

 本書では、予算の編成過程の舞台裏、成長戦略の空虚さ=産業政策が単に天下り政策であることなど、相変わらず面白い分析が盛り込まれています。まあ、これを読んで思ったことは、小泉政権はかなり意欲的な試みであったことがよくわかりますね。いまの鳩山政権は政権奪取まで十分な時間があった(かなり早い段階から政権交代の予測があったはず)にもかかわらず、政策を実行する「法的根拠」とその政策の具体的な中味の詰めをほとんど行ってこなかったツケが、いまに至るも継続しているわけなのでしょう。

 本書によれば、その最大のツケとは、小沢ー鳩山の権力の二重構造にあり、両者の間のさまざまな判断や認知のラグやずれが、政策の実効性をほとんど奪ってしまい、さまざまなアクター(最大のアクターは財務省)の利益追求の狩場や不作為を演出してしまっている、ということなのでしょう。

官邸敗北

官邸敗北