高橋洋一『日本経済「ひとり負け!」』

 日本経済、ひとり負け、まさにその通りだろう。本書の前半は日本経済ひとり負けの根源である、需給ギャップの存在=35兆円規模の存在とそれによるデフレ不況の克服が大前提であることが明記されている。そのためには財政政策と金融政策を組み合わせて行うべき事が解かれていて、相変わらず明解である。このブログでも何度も話題にしているが、日本銀行のガバナンス、これが一種の構造問題、あるいは公務員制度改革の一貫として考えるべきだ、という高橋さんの指摘はいいと思う。デフレバイアスのかかった日本銀行の政策スタンスを正すには、日本銀行法改正が避けて通れない。

 ここらへんの話題はこのブログの読者にとってはおなじみなので、その最新の整理として読まれるといいと思う。さらに本書は基本的に語り下ろしの性格なので、読みやすく高橋さんのリアルな肉声に近い感じだ。特に読んでて面白かったのは、デフレが格差問題の本質である、というところ。累進税率や相続税率の引き上げについてもそれがセーフティネットの充実として戦略的に述べられている。特に高橋さんの特徴は、自分の価値判断をきちんと全面にだしてこの種の所得再分配を語るところだ。例えば税率の変更などは、「好みの問題」(=平等をどう考えるか)としてはっきりと指摘しているのがいい。実際に税制やセーフティネットはただ単に実証的な問題とはいえないからだ。どこで政策を考えるときに「好みの問題」がかかわるか、本書ではそこらへんも随所に書かれてあると思う。こういうところは高橋さんは無意識に書いているようだが、いまの政策議論では忘れがちなところでもある。

 あと厚労省雇用保険の仕組みが、どんぶり勘定になっていてなぜか保険数理を使わない、それがこの雇用保険をもとにしたさまざまなムダとか特殊法人の存続に貢献していると示唆しているところは相変わらず面白い指摘だ。また「成長戦略」というものを歴代の政権は採用してきたが中味がほとんどないから愛用されてきたとか、産業政策の実績のなさと原理的なおかしさの指摘など面白い。2ちゃんねるネタもでてくるなど高橋さんの日常が見えて少し笑えるところもある。こういう語り下ろしスタイルでの高橋さんの自由な口調は読んでて楽しい。

日本経済「ひとり負け!」

日本経済「ひとり負け!」