原書を読んでいまして、御本を頂戴したにもかかわらず、読むのにちょっと時間がかかってしまいました。どうもありがとうございました。ブログ界で多彩な引き出しをもつ経済学者と知られるコーエンの本邦初登場の著作です。彼のブログや様々な雑誌での投稿などが本書の基礎になっています。テーマは金銭的なインセンティブという経済学が通常重視するもの以外に、人々の行動を規制する多様なインセンティヴ(文化的なもの、信条的なものなど)を含めて、会議の仕方、デートの方法、便器の上げ下げ、ソ連経済の破たんの原因、子どもの食器片付け、セックスが多いほど幸福感が増すのになぜ人は一生懸命にセックスに励まないのか、など様々なテーマを料理していきます。
コーエンのいくつかの専門論文や著作のエッセンスも巧みに導入されていて、コーエン経済学の入門としても最適でしょう。例えば
1 アメリカの美術館は寄付金で運用されているので、美術館は観客よりも寄付金をするお金持ちの嗜好にあった展示・運営をしている(例:豪華なレセプションなど)
2 自分が享受する文化的投資を決めるケース(例:頭痛がしているときにすでに購入した前売り映画券を使うか否かの選択)。それは自分のアイデンティティを保証する「物語」であるならばえいや!といくべき。自分を物語るものを補強する有益な映画だろうから。そうでないなら寝ているべき
3 自己欺瞞の章は渋いながらも本書全体の核になっている。人はたいてい自分が「平均」よりもましと思っている。時とともに成長するとも思いがちである。しかしそうではないことにも気が付いている。しかしこの自己欺瞞が人間の生活を豊かにする側面があることも忘れてはいけない。場合によっては積極的に活用するべき。他人の評価を厳しく考慮するよりも、自分を過大評価したほうが大きい仕事が達成されやすいのではないか。しかし他方で自己欺瞞は効果があるのにもかかわらず長期的な投資から目をそらしてしまうこともあるので危険なものでもある。
コーエンのようなエコノミストが活躍できるようになったのもやはり今日のネットの発達が大きく作用しているだろう。コーエンの著作はもっと日本に紹介されていいだろう。ちなみになぜそんなものを準備しているのか詳細は謎のままにしておくが、田中は「コーエンの経済学」という4万字くらいのペーパーを準備中であることを書いておきたい。
文化の創造的破壊:http://d.hatena.ne.jp/tanakahidetomi/20080521#p1
- 作者: タイラー・コーエン,高遠裕子
- 出版社/メーカー: 日経BP社
- 発売日: 2009/10/22
- メディア: 単行本
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