新城カズマ『物語工学論』

 ちょっと前から書店にあって読む機会を考えていた新刊。新城カズマ氏の作品は蓬莱学園、そして名作『サマー/タイム/トラベラー』など経済的テーマをさりげなく話の中に導入しているのが特徴でもある。例えば『サマー/タイム/トラベラー』では「時間」が社会や経済の中でどのような意味をもつのかを考えさせてくれた秀逸な作品であった。

 その新城氏が物語の作り方を基礎から教えてくれるという。先の時間についても本書では「造物主を亡ぼすもの」という類型から、亡びと時間との関係が物語の技法として重要であることが示唆されていて面白い。本書では過去の古典(トールキンアーサー王の円卓の騎士、オイディプスフランケンシュタインなど)を縦横に引用して、7つのキャラクターの特徴を整理することで、物語の基本的な構造を明らかにしている。

 巻末にはキャラクター作成のフロチャートがついていたり、実作家との対話も収録されているなど少ない紙数で充実の内容となっている。個人的には注が面白く、先に書いた新城氏の経済問題に対する態度が書かれている。

「ちなみに本書の著者の商業デビューが<時空を超える恋人たち>の物語であっただけではなく、現代における身分差/経済格差についてのドラマであったことは、不思議な因縁であるかもしれません。なんとなれば、当時はまだバブル崩壊がささやかれていたとはいえ、現在よりも圧倒的に楽天的な空気が社会を支配しており、そうした風潮に対して無意識のうちに弱者<マイノリティ>の物語(ことに経済的な弱者<マイノリティ>についての物語)がもっと書かれてしかるべきではないか、という意識が当時の著者にあり、あるいはそれ以後のデフレ不況と呼ばれる奇怪な低成長時代が続く間も、実は常にその問題について書き続けていたように思われるからです」

 実はこの「楽天的な空気」は、世界同時不況における日本の不況が長期化するかどうかの瀬戸際なのにもかかわらず、日本の社会にもまん延しているのではないか、と思ってしまう。

物語工学論

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