岩田規久男『世界同時不況』


 岩田先生から献本いただきました。どうもありがとうございます。前著『金融危機の経済学』と併読することで、今回の世界金融危機から世界同時不況への展望と、それに対する処方箋についての示唆が豊富に得られます。特に今回の著作は、昭和恐慌、世界大恐慌、そして日本の「失われた10年(以上)」の経験を踏まえて、デフレ不況がどのように長期停滞をもたらしたか、を明らかにしています。


 長期停滞は、金融政策の失敗に起因する実質利子率の高止まりによる消費・投資の低迷にあります。これを解消するために、積極的な金融緩和(インフレ目標を定めた長期国債の買いオペなど)を行うことで長期停滞を脱出する解決策が示されています。今回の世界同時不況の解決のキーもまた積極的な金融緩和とそれを補う財政政策のポリシーミックスにあるというのが本書の主張です。


 世界同時不況からの脱出策として、まず世界全体の金融の超緩和(=貨幣供給量の増加がポイント)が前提になること、国債発行額に相当する買いオペを実施することで、不況対策の見地から財政政策よりも(日本銀行が売りオペで資金を吸収しないかぎり)長期間にわたって不況解消の効果があると岩田先生は指摘します。


 また現状のバーナンキFRB議長の政策手法を、企業の金融(CPの買取)や家計の金融(資産担保証券の買取)の領域にまで踏みこんだ緩和政策を実行したものときわめて高い評価を与え、その一方で日本銀行にもFRBにならって企業金融と住宅金融(日銀による住宅ローン担保証券の買取)を促しています。実際に日本銀行は、CP買取(期間が短い欠点はあり)、資産担保CPの買取、償還期間一年以内の社債の買取など、従来の政策からFRBに習ったものに移行しつつあることに注目し、それを評価してもいます。そして日本にはデフレの足音が聞こえるなかで、日本銀行がデフレと断固として闘うことを求めています。


 そして日本銀行には、インフレ目標(1〜3%)を導入すべきであることを説いています。


 また財政政策については、過去の教訓(昭和恐慌、世界大恐慌など)を踏まえて、金融政策を伴わないでは効果がないこと、さらに財政政策でも民主党が考案している給付付き税額控除をかなり本書では具体的に検討し、その所得格差の是正効果、さらに消費増加への貢献など、いくつかの利点をあげて岩田先生はこの政策を奨励しています。民主党が政権をとったときには参考になるでしょう。


 本書はいままでの岩田先生の主張が総展望できること、そして今日の世界同時不況の現状とその対策を知る上で必読の書といえるでしょう。なにはともあれ読まれることをすすめます。


世界同時不況 (ちくま新書)

世界同時不況 (ちくま新書)