池尾和人「フリーランチではない政府紙幣発行」

 一足早くに『週刊東洋経済』を斜め読み。佐藤優氏のソ連社会主義再検証、野口悠紀雄氏も同様の話題と、なんかちまたではマルクス主義ソ連社会主義再訪ネタが大流行w。もちろんほとんどの人が「ネタ」でやっているだけで、真剣にソ連社会主義がいい!なんてのは絶対少数派だけど。


 さて巻頭の池尾氏の「経済を見る眼」。

 1)埋蔵金国債償却財源であり、埋蔵金を別な用途に使えばその分、国の純債務は増加する

 2)政府紙幣は禁止されている日本銀行による国債の直接引き受け禁止の抜け案を作ろうとしていることでしかなく、経済効果をみると国債の増発と政府紙幣の発行は同じ

 1)2)もともに政府の債務を増加させる点ではかわらないやげて返済する必要がある=フリーランチはない

というものである。このブログでも何度もとりあげたが、よく見かける批判である。

 1)については、高橋氏が埋蔵金の存在を指摘するまではまったく官僚の都合のいいように使用されており、国債償却財源として利用されていたという積極的事実はないだろう。その経過を無視してのこの種の発言にはどうも納得できないものがある。

 まあ、それはそれとして本論に移ろう。

 池尾氏の説明だと、「仮に国債発行残高が600兆円で、資産としての埋蔵金が40兆円あるとすると、差し引きの純債務高は560兆円だといえる。ここで埋蔵金を何らかの支出に充当して、その残高が減ったとすると、国債の残高は600兆円で変わらないといっても、正味の国民負担である純債務は使った分だけ増加していることは、誰でもわかるだろう」とある。

 疑問とすべき点は以下である。

 この種の主張が妥当するならば、さっさと国債償却に充当すべきことをこの種の主張者はすべきである。なぜなら国債償却をこれほどの巨額を行えば金利が低下することで景気刺激効果が現れるからだ。だが私見によれば償却を積極的に唱える根性のある埋蔵金償却論者はいない。事実上、埋蔵金はそのまま埋めておきましょう(償却にも当面使わず、もちろん他の支出にも使わず、埋蔵金の官僚のちょい食いを継続)といっているに等しいのではないか。


 この点について高橋洋一さんは『日本は財政危機ではない!』の中で次のように指摘している。

「2008年度に使える埋蔵金として日銀保有国債の償還分3.4兆円と財政融資資金保国債3.4兆円、計6.8兆円を挙げている。過去二度にわたり、吐き出した埋蔵金のうち、財務省は9.8兆円を「国債償還にあてる」と説明した。一般会計の借金を減らすために国債を買い戻すという方針自体は正しい。だが、財務省が実際にやろうとしているのは、ごまかしと非難されても仕方のないやり方だった。国債償還によって、市中に出回る国債が少なくなれば金利が低くなり、景気対策としても効果がある。だが、財務省国債償還にあてるといった埋蔵金9.8兆円のうち、市中の国債買入れにあてたのはわずか3兆円だけである。では残りの6.8兆円はどのように使われるのか、実は、日本銀行保有する国債3.4兆円分と、財務省の財政融資資金が保有する国債3.4兆円分を買い入れるという。はっきりいって、これでは国債を償還したことにはならない。財務省はもちろん政府の一部だし、日銀も広義では政府のなかにあるからだ。財務省の隠しポケットにあった埋蔵金を同じ服についている、日銀というポケットと財務省のポケットに移し変えるに過ぎない」(107-8)


 国債償却により金利低下→景気刺激効果を追求せず、埋蔵金を埋め戻しただけである。なぜ埋め戻しを財務省と日銀はタッグで行ったのか? そのインセンティブについては高橋さんの同書を読むべきである。


2)については、最近、このブログでもふれたので重複を避けたいので以下を読まれたい。

日本銀行政府紙幣への言い分http://d.hatena.ne.jp/tanakahidetomi/20090226#p5
露骨な富裕層優遇よりも政府紙幣が嫌われる理由とは?http://d.hatena.ne.jp/tanakahidetomi/20090215#p1
日本のトンデモ経済論(『エコノミスト』の匿名論説を読む)http://d.hatena.ne.jp/tanakahidetomi/20090225#p2

日本は財政危機ではない!

日本は財政危機ではない!