デフレとリフレと再分配

 http://d.hatena.ne.jp/finalvent/20090115

 finalventさんの疑問に簡単に答えるコーナーです。

 深刻な不況に、積極的なマクロ経済政策(もちろん政府や中央銀行がお金をいじる=金融緩和政策や財政政策のこと)が納得できない、理解できない、支持できない、という人を無理に説得する意欲が、特にネットではわかない。それはコトバはきつくなるが、僕には単なる「知識が不足している」か「理解が足らない」かであるし、別にそれを解消できないのは経済学者の責任でも、もちろんリフレ派の責任でもないからだ。学生であれば指導するが(それでメシをたべているので)無料のディナーは用意するにも限界がある。

 つまりは、ご本人たちの問題でしかない。finalventさんが1日でも早くちゃんとした理解に到達されることを応援したいと思うが、心で応援しているだけにしたい 笑。

 端的にいって本屋にいけば膨大なマクロ経済学の教科書がある。そこには円高が不況にはいいとか、非効率的な企業を淘汰すれば不況にいいとか、ワークシェアリング内部留保の活用などの一時的再分配が不況脱出策だ、などと書いてあるテキストはほとんどない。

 日米ともの不況対策として財政・金融政策の有効性を書いてある教科書がほぼすべてであることは、数年前に原田泰さんが、日米の代表的なマクロ経済学のテキストを何十冊の検証して明らかにしている。以下の本の中に収録されているはずだ。だから深刻な不況のときに、「政府や中央銀行が通貨をいじるのはやめてくれ 」というのはリフレとかリフレ派とかには関係なく、経済学的常識からちょっとまずい。それと政府が通貨をいじることは、これは政府通貨みたいなことかもしれないが、硬貨は政府通貨そのものであるのでこれも絶えず「いじっている」ことになる。

長期不況の理論と実証

長期不況の理論と実証

 finalventさんの「リフレって結局増税と同じ効果になるはず 」という発言だが、これはデフレ状態であるかぎり基本的に「ならない」。例えば通貨発行益は、インフレによる負担が発生することなく(デフレなのだから当たり前だが)、政府は「減税」を行うことができる。つまり負担を「国民経済全体」にかけることなく、増税ではなく減税で景気浮揚できるわけである。finalventさんがもし仮に数兆円の資産をキャッシュで保有していればそれが個人にとっての深刻な「増税」にみえる可能性もあるが、それは「国民経済全体」では正直どうでもいいことである*1

 「経済成長っていうのは質を問わないとあかんちゃうやろか」

 質を問いている間に、経済成長自体がおしゃかになる=長期停滞を放置する ことになったらもともこうもないので、この疑問は、不況対策としてはどうでもいいことである。優先順位が違うという言い方をしてもいいが、不況対策に経済成長の質の問題は無縁なので優先順位問題にすらならない。ただ単に問題と解決が違うだけで論点がずれているだけである。

 「、それは結局、マイルドインフレと全体的な経済成長を伴うので、いわゆる左派的な支持は得られないし、また角栄的な地方政治でも支持されないんじゃないかとは思う。」

 左派の支持がリフレを理解しないならばその支持は不用である*2角栄的な地方政治はこの場合、はじめから排除されることはない。なぜなら別に質の云々を問うのは深刻な不況のとき意味が乏しいといっているので、以下の理由から地方バラマキさえも僕は別に最初から排除しないのである。

 つまり本当に不況脱出の点で、質が問われるのは以下の場合だけである。それが一時的なバラマキが、それとも期待転換を伴ったバラマキなのかである。不況脱出で問題になるのはそれだけである。

 前者はまさに「ムダ」であり質に「劣る」というか論外。後者は角栄が喜ぶ場合も含めて「ムダではなく」質の点で「優る」。不況対策の文脈ではそれだけがいえるだけである。

*1:個人ベースでも明示的なリフレ過程=デフレ解消過程でその資産家がなぜまだ現金保有にこだわり続けているかの真因を問えば面白いことがわかるだろう 笑

*2:なお、左派の意味にもよるが、生存権の経済基礎などと考えている僕はかなり左派よりだし、またリフレ派でも松尾匡さんや稲葉振一郎さんは左派なんじゃないのかな。BUNTENさんも左派でしょうw 左派とリフレとの折り合いはそんなに悪くはない