90年代の財政政策と麻生政権の経済政策

 山形さんは興奮してますが… 
http://cruel.org/other/rumors2008_2.html#item2008103101

僕もスティグリッツ&フェルドシュタイン&山形案を麻生政権の目指すところと考えたこともありましたが、金融政策なきままの財政政策など考えるうちにストレスが強くなりすぎますねえ。ですんでそのときのエントリーにも参照させてるけれども望ましい財政政策ってやはり金融政策との連動がないと無理。

 「将来の税負担と現在の財政拡大」のリンクをちょんぎる方法が要になるんですよね。そのちょんぎるのに金融政策が必要(別な方法としては日銀には静かにしてもらった上で 笑 政府が事実上の金融政策を行うという政府通貨政策もありますが)。

 フェルドシュタイン案が、まったくだめとは言い切れないけれども理論と過去の経験に照らせばほとんど百害ありそうで効果あんましなさそう、というのが妥当じゃないでしょうか?

 90年代の真ん中で一時的減税→消費税アップ という組合せがありました。バーナンキはかって日本の90年代において、停滞を脱出するために財政政策が数度試みられたことを考察しています。その上でそれらの財政政策の効果がきわめて限定的だったことを指摘していました。

 その限定的になった理由はこのブログでも昨日書いたばかりですが、現時点で財政を拡大させると、将来の増税を避けられないと考える国民は、減税や補助金で名目所得が一時的に増えても、それを将来の増税に備えて貯蓄してしまい、現時点の消費に回さなくなるー「リカードの等価命題」がバーナンキは90年代の日本にあてはまるとしていました。

 そこでさきほどの90年代真ん中にあった94、95,96年の三年間の一時減税→97年消費税アップがどんな影響を及ぼしたかをみる必要があります。このケースはちょうど三年間というのが奇しくもだか財務省の語呂合わせ?だか知りませんが今回の三年間減税で三年後消費税増税というのとまったく同じですね。

 清水谷さんの本がこの時期の展望にはすぐれています。

 94年の一時減税は、今回の麻生政権の減税先行・増税三年後政策を考えるときのまさに完全なる財務省的プロトタイプです。思い出すだけにこれは本当に笑える。たぶん財務省の連中は本当に何も考えてないかたまたまなのか、よほど国民の健忘症をバカにしてる!といいたくなるほどですが。

 いやいやあまりの諧謔?に、つい興奮してしまいましたが。このときの政権は細川内閣。で、中高年は憶えてますよね? あの夜遅い時間にいきなり、細川首相が国民福祉税構想を発表したことを。このとき6兆円規模の所得税・住民税減税の先行と三年後に「国民福祉税」として消費税を3%から7%にアップするという案を出しました。

 もちろんこれ大問題を引起してやがて連立政権の空中分解を招くのですが、とりあえずその年の9月には消費税を97年に5%に引き上げ、減税の先行実施という政府の基本方針が確定しました。この段階で強いコミットが形成されたといっていいでしょう。実際に94年度以降、97年までこの時点で決まった減税+増税の組合せで財政政策は動いていくわけです。ちなみに94年は一時減税ショーを含む最大規模の財政政策、いわゆる「総合経済対策」(グオー!ネーミングまで今回と同じだ! 本当に悪い冗談か?w)が行われた。この「総合経済対策」は、総額15兆2500億円規模であり、またこれを超える一時的減税ショーは以後みられなかった。

 95年も円高・株安がさらに進行しその対策として減税方針が再度確認・実施され、さらに97年からの消費税増税も再度強く確認された。94-96年の減税へ定率減税方式であった。詳細な実証分析は清水谷さんの本を参照すべきです(90年代のこの時期に清水谷さんはバーナンキと同様にリカードの等価命題が成立していて、減税の効果がほとんどなかったとしています)。ただここでは生のデータからいえることとして、この時期の実質家計可処分所得の伸び率は減少傾向で、94年から95年にかけてマイナスになり、96年に若干のプラスになったままそれ以降はほぼゼロ%水準で90年代を終える。家計最終消費支出伸び率は94,95年とバブル崩壊以降の低水準を維持し、96年にわずかに増加し(駆け込み需要は97年の同伸び率を一-3月期に2.5%増、しかし4―6月期は反動でマイナス4%へ)、97年はマイナスに大きく落ち込み、以降0%付近を90年代続ける。この97年こそ「失われた10年」の最大のショックが待ち構えていた年でした。

 リカード等価命題からは、この97年の増税は予期されていたのだから家計への影響はほとんどないように思えるかもしれませんが、消費税増税以外にも医療費値上げ、公共事業の橋本政権による足枷、そしてなによりもこの時期の金融政策は事実上の実質金利の高止まりが深刻だった時期でもあります(マネーサプライの歴史的大低迷)。つまり金融政策ないまま財政政策だけやっても過去の教訓からいうと百害あって一利あるかどうか不明……orz

(補)もちろんリカード等価命題は自然法則ではないからw人々の行動原理が変化してればどうなるかはわからない。変わりましたか? ぼくらの経済的行動原理は?

(追記)山形さんが興奮している、と書いたけど、僕も興奮した。改めて調べてみて、麻生政権の「総合経済対策」が、94年の「総合経済対策」のコンセプトをそのまま引き継いだものだということにだけど 笑。