八田達夫の財政政策の失敗(1997年消費税増税時)の指摘

 八田達夫先生が、岩田規久男先生との共著『日本再生に「痛み」はいらない』(東洋経済新報社)で述べた1997年の消費税増税による景気失速への発言です。当時は先行してさまざまな「減税政策」があったことも思い出しておきましょう。

(1)1990年代の景気は拡張していた。理由は政府の財政が拡張しているから。財政拡張により民間の設備投資も拡大。まだこの回復自体が不十分な中で97年の9兆円の増税が生じた(ちなみに今回2014年は10兆円規模)。

(2)増税の前年96年(いまだと今年だ!)に大蔵省は大々的な財政構造改革キャンペーンをはり、景気は回復したのだから財政を緊縮する必要を喧伝。97年に消費税増税所得税特別減税廃止、健康保険料の引き上げで9兆円の増税を実施。これが景気を大きく屈折。

(3)この消費税増税による景気大幅後退説に対して大蔵省(いまも同じ理屈を財務省は採用)は、97年4〜6月の対前年同期比の消費減少は、直前の駆け込み需要の反動にしかすぎず、7〜9月には回復しているのだから消費税増税の影響はなく、景気後退はアジア経済危機や金融危機のせいだ、と主張する(これを大蔵省見解と名付けよう…田中)。

(4)この「大蔵省見解」は間違いだ、と八田先生。
 
なぜならⅠ.消費税率の引き上げは住宅投資や耐久消費財に大きな影響を与える⇒住宅投資は、97年4=6月も減少しているが、7=9月期はさらに減少幅拡大。耐久消費財も同様。

 Ⅱ.全体の消費はなぜ7-9月期に前年比で伸びたか? その理由は、食料消費が前年の0-157事件による急減と比較しての回復だから。また光熱費も回復しているが、前年が冷夏だったから。


(5) 当時、八田先生は「景気回復が本格化するまで消費税増税を控えるべきだ」と提言したが、レクチャー(説得とかけん制)にきた大蔵省の消費税担当の課長たちは、「先生、景気対策だけは私どもにおまかせください」といったり、「最新の経済学の理論では、ケインズ経済学は死んだということになつております。財政と景気はまったく関係ないのでございます」と政治家たちに“ご説明”している資料で説明している。もちろん八田先生は当時猛烈に反論したが、結果は増税で経済の大不安定化だったことが周知の事実。

 八田先生は以上の97年の財政政策の失敗を次のように総括している。

「大蔵省は、1997年の増税に際して、主税局も主計局も本心から、景気に対する配慮をまったくしていなかったと思いますね。こういうことを国会議員の先生たちに説明していたいちばんの責任者であった当時の主計局調査課長は、出世していまも財務省ののうのうとしています。財務省の辞書には、責任という言葉はないのでしょう」。

 いまもまったく同じ構造だ。「景気の腰折れをふせぐ」政策など真剣には考えてはいない。考えているのは税率を担保とした自らの省益、さらには自身の栄誉とお金(天下り含む)だろう。

日本再生に「痛み」はいらない

日本再生に「痛み」はいらない