安達誠司「大恐慌は再来するか 1930年代との類似点、相違点」

 『Voice』11月号献本いただく多謝。安達さんの30年代大恐慌と今回の世界金融危機との比較分析。同様の試みは『エコノミスト』の若田部昌澄さんの論説でも行われているとのecon2009さんの詳細な紹介があるもののそちらは未入手。

 とりあえず自分のためのメモ。詳細は同論文を読まれたほうが吉。

 http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20081010-00000004-voice-pol
 http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20081010-00000005-voice-pol
 http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20081010-00000006-voice-pol

 1930年代の大恐慌深化のプロセスを理解することが今般の金融危機を理解するうえでも役立つ。

1 1929年の「暗黒の木曜日」以前からの予兆あり。投機熱の元である「ブローカーズローン」(信用取引)への直接規制、および投機沈静のための金融引締め →直接規制が効果あり。株価下落のために投機家たちは取引継続のための証拠金を追加できなくなった。投機家の株式の投売りが始まる。

2 住宅バブルの崩壊の帰結(金利引締め→モーゲージ金利上昇、家計もブローカーズローン熱→追加証拠金負担が家計に、株価投売りでのキャピタルロス、所得減少が耐久消費財需要減へ)

3 国際的な資金の流れが、アメリカの株価暴落によって、新興経済圏(南米諸国、日本など)に資金調達の阻害、主力輸出品の低迷を招く。つまり世界レベルへの恐慌の波及

4 デ・レバレッジ(経済全体のお金の急縮小)の加速。安達さんは「フィナンシャル・アクセラレーター」理論で説明(詳細は同論説参照されたし)。株価下落→金融機関の安全資産(金、国債)への資産構成変更→一層の資産価格暴落へ→投資家のリスク回避行動の強化へ(資金需要の急減)*1→新規投資抑制、既存プロジェクトの回収 →景気悪化へ

 安達さんは大恐慌と今回の類似点として

 一 資産ブーム崩壊のデ・レバレッジ
 二 大企業の「金余り」→投資ブームの基礎
 三 ブーム終焉は資産価格(29年は株、今回は住宅価格)の下落を狙った金融引締めが原因

 大恐慌を止めた原因は、ルーズベルト大統領の金本位制停止という「レジーム転換」と積極的な金融緩和

 今回は? まだFRBには金融緩和の余地はある(不況対策)。さらに資本注入での当面の金融危機回避。この二点を考慮すれば大恐慌に陥る可能性は少ない、というのが安達さんの見立て。

 「むしろ今後、懸念されるのは、欧州および新興経済圏の金融危機(下のエントリーのWSJの世界危機マップを参照されたい)がもたらすグローバルレベルでの第二次金融危機」ではないか、と安達さんは懸念している。

 特に2007年央からの資源価格高騰を抑えるための金融引締めを多くの国がとったことが、世界的に発生していた資産価格や住宅価格のブームを終焉させてしまった。むしろこの住宅ブーム崩壊による世界不況を安達さんは心配しているといえる。

 この安達さんの分析は、IMFエコノミストによる最新の分析http://www.imf.org/external/pubs/ft/survey/so/2008/NUM100808A.htmからも補強されるだろう。IMFエコノミストのPrakash Lounganiは(安達論説が新興経済圏に注目しているのに対して)先進国での住宅価格ブームの終焉によって失業率が倍増するなど不況を深化させることを予測している。

 以下の図では2008年上半期の各国の住宅価格の低下を示していて、これらの先進国での住宅価格の下落率を描いたものであり、ヨーロッパ諸国の住宅価格の下落率がかなり大きいことを示している。金融危機の本格化は夏終盤なのでこの下落傾向は拡大・継続しているのではないか?

 安達さんはアメリカ経済の立ち直りには楽観的である。むしろ早期に立ち直り、ポール・クルーグマンが指摘するように(オバマ政権樹立を前提にしているのだろう)、国内の所得格差是正、社会資本整備などの内向きの経済政策を充実させていくだろう、と安達さんは見ている。

 ここらへんは「ふつうの不況」論を唱える僕からみても支持できる。むしろ日本の方が心配だといえるのではないだろうか。

*1:これは日本の「失われた10年」と同じメカニズム。finalventさんhttp://d.hatena.ne.jp/finalvent/20081015/1224030269はデット・オーバング仮説に興味がおありですが、むしろ資金需要側の方に問題が起きるのではないか、というのがポイントではないでしょうか