谷口ジロー『孤独のグルメ(新装版)』、『冬の動物園』

 ニコラス・ケイジの『孤独のグルメ』確かに観てみたい。仕事もせず、そして大して勉強もせずに日がな一日、近所の図書館とドトール珈琲と石神井公園周辺の黄金の三角形を行ったりきたりしていた80年代終りから90年代はじめにかけて、よく三宝寺池にもいった(まだ大学院にも行っていない)。『孤独のグルメ』でもそこのお店が舞台になっていて懐かしい。ちょうど僕がぶらぶらしていたとき(いまよりもぶらぶらしていた人は本当に少なかった)よりも4,5年後の光景が描かれている。同じだけども 笑。『冬の動物園』は若い頃の谷口ジロー自身の体験がもとになっているのだろうか。こちらも佳作。谷口ジローの作品はなんでも読みたくなる。まだ全部は読んでないけれども。

孤独のグルメ 【新装版】

孤独のグルメ 【新装版】

(追記:東京ニート日和1989-1991w)

その足掛け三年におよぶぶらぶらの日々に、ひたすら僕は小説を読んでいた。そのとき一番のブックガイドだったのがマリオ・プラーツの『肉体と死と悪魔』。いま手元の翻訳をみると88年の版を持っているからちょうどぶらぶらするために購入したのだろう。これを手がかりに東京のいろんな図書館をぶらぶらした。一日の(同居していた彼女からもらっていた)小遣いに制限があるので基本は石神井図書館だったが。当時、このプラーツの他の本が読みたかったが語学の壁がそびえていてなかなか手がでなかった(本代もなかったが 笑)。ともかく翻訳でプラーツが言及しているものは全部読もうとした。この翻訳には「翻訳書誌」が入っていて、そういう物好きが少なからずいることがわかる。このプラーツの本に加えて『フランス幻想文学史』の「翻訳書誌」にも助けられた。

 そんなに系統的には読んでいないし、専門家ならばやはり原書で読むべきだろうし、またそのためには何ヶ国語を理解している必要があるだろう。もちろん、基本がぶらぶら時代の僕にはそんなガッツはなく、ただ単にかたっぱしから翻訳を読んでいたにすぎない。暇になると散歩とテレビゲーム、アーケードゲームに没頭した。プラーツの方の翻訳書誌をみてみると、当時どんなものがわりと好きだったのかが、わかる。カゾット『悪魔の恋』、グラック『アルゴールの城にて』、ゲーテ「コリントの花嫁」、ゴーチェの作品群、コリンズ『白衣の女』『月長石』、サド、シュオブ『架空の伝記』、ジュネの作品群、ダヌンツィオ、ディドロ『不謹慎な宝石』『ブーガンヴィル』、ビアズリー、プーキシン(あと英語で『プーシキン館』も読んだ 笑)、フロベール、ペイター著作群、ベックフォード『ヴァセック』、ホーソン「ラパチーニの娘」、ミルボー『責苦の庭』、メルヴィルの著作群、ユイスマンの作品群、レ・ファニュ、オスカー・ワイルドの作品群などを読んだらしい。実際にはこの数倍の本をこの時代に読んでいた。まさにニートどころか、単なるヒモである。ヒモといってもいまの若い人はわかるだろうか? 死語になっていないことを望むが 笑。

肉体と死と悪魔―ロマンティック・アゴニー

肉体と死と悪魔―ロマンティック・アゴニー

 しかし当時を思い出すと、バブル、湾岸戦争の時代であり、その時代をまったく意識することなく、時間だけがけだるくすぎていった。ところでいま検索するとプラーツの翻訳が物凄く出ているので驚いた。それを読む暇はちょっと今はない。その意味でも当時は、傍目には目的を失っているように見えても、それなりにいい日和が続いていたのかもしれない。この『孤独なグルメ』や他の散歩ものなどを読むとその当時のことが鮮やかにやはりかなりけだるさの感覚とともに思い出される。それだけだがw