今年、二カ月と数日で読んだマンガのお気にいり

 新著の追い込みが重なり、ブログ更新どころの騒ぎではないのはわかっているのだが、それでも息抜きにマンガはコンスタントに読んでいます。ここ二カ月ばかりの間に読んで気に入った作品をランダムにあげてみたいと思います。

 まず名作といっていい境地のものは、川上弘美原作・谷口ジロー作画『センセイの鞄』の第二巻です。七十を超えた元教師と三十代後半の元教え子との恋愛に至る話です。常にこの世と彼岸との境のような日常の飲食や散策が描かれていて、その抑制されたエロスの予感が作品を心よいものにしています。実はいまずつと谷口ジロー論を抱えているのですが、この作品がフランスで訳されたときはどんな感じになるのかなあ、とふと思っています。

センセイの鞄 2 (アクションコミックス)

センセイの鞄 2 (アクションコミックス)

 さて次はいまも『モーニング・ツー』で連載されている、これまた何度も読み返してしまう作品、渡辺ペコの『にこたま』の第一巻です。この作品は仲のよい未婚の同居カップル(20代後半)と、その男の方が職場の同僚を妊娠させてしまうことで物語が開始します。とはいえドロドロした感じではなく、この『にこたま』の基本構造は、柳沢きみおの名作『翔んだカップル』と同じです。カップルはケイちゃんと勇介。そして妊娠している年上の知的な美女は杉崎さんです。この男の欲望の三角関係とでもいえるものを渡辺ペコは21世紀になって本格的に蘇らせたといえるでしょう。題名の「にこたま」は男性性器の別称でしょうが、連載を読むとひょっとしたらふたつの卵という意味になるかもしれませんね。

にこたま(1) (モーニング KC)

にこたま(1) (モーニング KC)

 渡辺ペコに嵌ってしまい他の作品も読んでいるのですが、新作短編集の『ペコセトラ』も面白いですね。

ペコセトラ (Feelコミックス)

ペコセトラ (Feelコミックス)

 『シドニアの騎士』の第二巻にも泣きました。あれではデビルマンの美樹ちゃんです。

シドニアの騎士 2 (アフタヌーンKC)

シドニアの騎士 2 (アフタヌーンKC)

 中村珍の『羣青』は連載が中断されていたのが再発進ですね。しかしまとまって上巻とはいえ非常に大部の本としてでました。物語も骨太で、全然話は違うのになんだか新井英樹の『ワールド・イズ・マイン』を思い出してしまいました。

羣青 上 (IKKI COMIX)

羣青 上 (IKKI COMIX)

 最後は気軽に読めるけれども愛すべき作品として麻生みこと路地恋花』第1巻はいいですね。

路地恋花 1 (アフタヌーンKC)

路地恋花 1 (アフタヌーンKC)

 あと旧作なのですが、フレデリック・ショットが訳した英日バイリンガル版の『攻殻機動隊』ですが、これはなかなかよかったです。英語と日本語半々で読んだかな。勉強になりました。

 そうそう何度も読み返しているという点では、『センセイの鞄』や『にこたま』同様に以下の作品を忘れてはいけませんでした。吉田秋生の『海街diary3』ですね。1と2を併せて暇な時間や就寝前に繰り返し読んでます。嬉しい作品ですね。

海街diary 3 陽のあたる坂道 (フラワーコミックス)

海街diary 3 陽のあたる坂道 (フラワーコミックス)

 あとはこれも旧作の復刊ですが、昨年の終わりに行ったマンガ論の報告で、栗原裕一郎さんから指摘いただいた岡崎乾二郎『333からトビウツレ』を読んで、急に楳図かずおの『わたしは真悟』を再読したくなりました。運よく新版が出ていてそれが最近完結しました。この作品の迫力はやはりすごいですね。特に再編集本の二巻までがものすごい緊張感。永遠の名作でしょう。