小松左京『小松左京自伝』


 このエントリーhttp://d.hatena.ne.jp/tanakahidetomi/20080221#p4で稲葉氏が次の発言をしていました。


:稲葉 小松左京の『日本沈没』には、情報科学者の中田という人物が登場します。小説の中で中田はタスクフォースのリーダーになりますが、彼は、「ツボ」とか「勘どころ」がいかに重要かという話を一生懸命します。それは、小松左京自身の方法論なのだろうなと思うわけです。世の中のすべてを知り尽くすことは不可能だし非効率だけど、でも、世界じゅうを見渡したほうが良いということも事実であって、そのとき、どうやってバランスをとるのか、という意味での方法論ですね。:


 小松左京氏のツボ論はどんなものなのか。と思っていたら新刊でご本人の自伝が。さっそく読破。小松氏がどうも進化史観と輪廻史観を織り交ぜた見解をお持ちだということはわかりました。宇宙の中に救済はあるのか? 進化の行き着く先に救済はあるのか? という問いだそうです。


 「宇宙は人間がやるんだなと。逆に進化が人間の宿命であり、何か地球生命の義務であるとすれば、やっぱり宇宙は行かなきゃいかんだろうと」(299頁)。


 これはひょっとして人間原理に通じるのでは? 人間の進化と輪廻を重ねることで、小松氏の思想はこの本だけでは明瞭とはいえないものの、なんか妙に三浦俊彦氏に似ている(例えば最近著の『多宇宙と輪廻転生』など)。


 方法論自体は、対話の聞き手が、小松氏の『鳥と人』(1992)をまとめて次のように述べている。


「−−−最初に抽象的な問いを立てられるだけ立て、統計資料で裏づけを取りながらピンポイントで事例探訪して、抽象レベルと往復して最後に大きな世界を再構築する」


 これは先のエントリーでふれた総合弁証法そのものの枠組みであり、そこにツボ=ピンポイントが組み込まれている。この『鳥と人』も読んだほうがいいかもしれない。

小松左京自伝―実存を求めて

小松左京自伝―実存を求めて