稲増龍夫「今を読み解く アイドルの社会論」in『日本経済新聞』

Twitterで江東脩平さんに教えていただきました。ありがとうございます。この稲増氏の論説は、AKB48ブームやK-POPブームを背景にした最近のアイドル研究書の流れを展望したものです。僕の『AKB48の経済学』も紹介していただいています。稲増氏は1989年に『アイドル工学』を出版されてこのアイドル研究分野の先駆けでしたが、90年代のアイドル冬の時代をうけてその後に後続の研究がなかった状況を冒頭で書かれています。実際に僕も自分の本を書くときには先行する本が皆無に近く手探りですすむしかありませんでした。

それが先のグループアイドルのブレイクをうけて一挙に増えました。稲増氏が紹介し分析しているのは、太田省一氏『アイドル進化論』、僕の『AKB48の経済学』、朴倧玄氏『KARA、少女時代に見る「韓国の強さ」』、宮本直美『宝塚ファンの社会学』です。これは私見ですが、拙著が今回のアイドル研究書ブーム(?)の一番バッターではないかと思います。ちょうど今頃、企画をたてたわけですが、当時はAKB48とはいえ、それが(写真集などではなく)広くファン以外の人に読まれることを目的とする本になるかどうかわからない「賭け」みたいなものでした。

今や社会現象化するほど絶大な人気のAKB48は、CD売上げの低迷が続く中、今年になって「Everyday、カチューシャ」で久々のミリオンセラーを記録したが、そのビジネスモデル=マーケティング戦略を解題したのが田中秀臣AKB48の経済学』(朝日新聞出版、10年)である。「デフレ不況で増殖する『心の消費』」、「嫌消費」、「集団化するリスク分散」「熟練型年功序列」などの経済用語を援用しつつ、デフレ経済の申し子であるAKB48にデフレを脱却する牽引力を求めるのは幻想としながらも、人材市場における経済弱者である「若者」のサクセスモデルとして高く評価している。

と稲増氏に解説していただきました。僕は『AKB48の経済学』でふれた「心の消費」から物語の経済学を、さらにコーエンの『創造的破壊』の解説、今度でる『3.11の未来』での小松左京物語論で展開していっています。それもこれもAKB48=アイドルとの出会いがなければ関心を深めることがなかった問題ではないか、と思っています。アイドル研究はまだまだ始まったばかりで、先駆者の稲増氏をはじめ多くの研究者が分野横断的に語りあってもいいのではないか、と思っています。

ちなみにアイドル研究書やその関連文献をいくつか補遺させていただきますが、西森路代さん『K-POPがアジアを制覇する』、いしたにまさきさんと福嶋麻衣子氏の『日本の若者は不幸じゃない』、岡島紳士氏と岡田康宏氏の『グループアイドル進化論』が思いつきます。また音楽市場のライブ化をとらえた津田大介さんと牧村憲一氏の『未来型サバイバル音楽論』、宇野常寛さんの『リトル・ピープルの時代』、真実一郎さんや斉藤環氏の評論、デフレカルチャー論の速水健朗さん、そして速水さんたちとの共著(『バンド臨終図鑑』など)もある栗原裕一郎さんのアイドル批評なども重要ですね。本当に広がりがあります。

稲増氏は今後のこのジャンルでの70年・80年代生まれの若手研究者のさらなる開拓に期待しています(ちなみに上の西森、岡島、岡田、津田、宇野、真実、速水各氏はその世代です)。でもまだまだおじさん=僕も頑張りますよw

以下はブックガイドを兼ねたアマゾンコーナー

アイドル工学

アイドル工学

アイドル進化論 南沙織から初音ミク、AKB48まで(双書Zero)

アイドル進化論 南沙織から初音ミク、AKB48まで(双書Zero)

AKB48の経済学

AKB48の経済学

KARA、少女時代に見る「韓国の強さ」 (講談社+α新書)

KARA、少女時代に見る「韓国の強さ」 (講談社+α新書)

宝塚ファンの社会学―スターは劇場の外で作られる (青弓社ライブラリー)

宝塚ファンの社会学―スターは劇場の外で作られる (青弓社ライブラリー)

K-POPがアジアを制覇する

K-POPがアジアを制覇する

日本の若者は不幸じゃない (ソフトバンク新書)

日本の若者は不幸じゃない (ソフトバンク新書)

リトル・ピープルの時代

リトル・ピープルの時代