研究関係で読んで面白かったもの


 最近、再読したのも含めると、まずシリーズがまとめて復刊したUP選書の一冊。生前は何回かお目にかかりお話をしたこともある古田光先生の名著。『河上肇』。河上の宗教観が信心ではなく倫理的なものであることを喝破し、また『貧乏物語』の思想史的な位置取りも非常に鮮やかに記している。河上肇ウェーバー流の心情倫理の人ととらえ、その精神的結晶が非転向の立場とみる、という解釈をとっている。今回の復刊された本の大半を読んでいるけれども、その中でも断然いまなお刺激的な切れ味を誇る。



 田澤晴子『吉野作造』(ミネルヴァ書房)は、吉野作造記念館の主任研究員の手になる本格的かつ最新の評伝。特に吉野の幼少から学生時代までは資料を駆使して非常に精緻に書かれている。思想史的評伝の見本とも言える好著。成田龍一大正デモクラシー』(岩波書店)。最新の通史としてはハンディなので役にはたつでしょう。僕はあまりにも立場が違うので読むのが苦痛だったが。社会的弱者、社会的排除、植民地問題、帝国主義の犯罪性などに興味があれば魅かれる人もいるでしょう。

吉野作造―人世に逆境はない (ミネルヴァ日本評伝選)

吉野作造―人世に逆境はない (ミネルヴァ日本評伝選)

 王暁秋『中日文化交流史話』(日本エディタースクール出版部)。この本は一読おススメ。古代(徐福)から大正(李大訢と吉野作造)までの交流史を興味深く、またあまり知られていない人たちのエピソードにも配慮してまとめた日中交流史。個人的なつぼは最初の徐福。