スウェーデン切手からみるノーベル経済学賞


 赤間さんのトラックバックいただいたエントリーを含むいくつかの記事

 『国富論』翻訳略史(戦前編)http://d.hatena.ne.jp/akamac/searchdiary?word=%2a%5bmiscellany%5d
 夏目漱石『明暗』のなかの「経済学の独逸(ドイツ)書」再論http://d.hatena.ne.jp/akamac/20070324/1174711281
 マルクス切手http://d.hatena.ne.jp/akamac/20070328/1175073011


を読んでいて、ふといま個人的に蒐集しはじめたスウェーデン切手のカタログに手をやってみた。もちろんスウェーデンといえばノーベル賞の国でもある。式典で受賞者に栄誉を授ける国王カール5世とシルヴィア王妃の肖像切手はもちろん、歴代のノーベル賞受賞者の切手も数多く発行されている。前も少し書いたがスウェーデンの切手は彫り職人が切手に記名をしてその技を誇示するほどのハイクオリティな芸術作品である。どのくらいすごいかといえばここの記事を読まれたい。


 さて手元のスウェーデン切手カタログをみるとなんとそこには経済学賞受賞者はまったく肖像切手として現れていない。他の各賞は軒並みわりと現在に近い人も発行されているのだが、経済学賞はその存在さえも無視されているようである。例えば、(城山三郎死去のエントリーで言及した山田雄三に影響を与えた)グンナー・ミュルダールも経済学賞の初期の受賞者だが、夫人の平和賞受賞のアルバ・ミュルダールは肖像切手(1991年)が出ているのだが夫はでていない。


 これは根井雅弘氏が『物語現代経済学』でふれているように、「ノーベル経済学賞」が正しくは「アルフレッド・ノーベル記念スウェーデン銀行経済学賞」であり、ノーベル自身の遺言には含まれていないなど、その“出自”に議論がある賞だからかもしれない。


 ただ他方で、赤間さんのエントリーでは切手の世界での経済学者といえばマルクス、レーニン、エンゲルスたちや社会主義的思想家・経済学者が圧倒的な存在感をもっている。ちなみに赤間さんのエントリーでふれられているが、杉原四郎先生のマルクス切手蒐集のまとめは、『切手の思想家』にあり、また郵趣の人物切手頒布会発行のニューズレターにごく最近まで間歇的に先生は寄稿していたと記憶している。なお僕も切手の博物館の図書館で、『切手の思想家』以降のマルクス切手や経済学者の図案の切手の図書を探したことがある。ドイツで1冊その種の研究図書がでていたことを覚えているが詳細は忘れてしまった。


 というわけで切手の世界では社会主義派が圧勝であり、これはスウェーデンの切手でも同様である。スウェーデンの人物を肖像にした切手をみてみると、なぜかロバート・オウエン生誕200年を記念した実に玄人好みの渋い切手が1974年に発行されている。オウエンとスウェーデンの関連は僕にはいまはわからない。知ってる人がいたら教えてほしいと思います。というわけで切手の世界ではそもそも経済学者はなぜか人気がなく絵柄にとりあげられることがないのである。経済的な事件そのものもめったに登場しない。これは万国共通である。例えばアダム・スミスやケネー、ケインズ、マーシャルらも図案として登場したのを僕は知らない。スミスぐらいでているかもしれないが、00年において調べた範囲ではなかった。


 だからノーベル経済学賞の受賞者が切手の図案に登場しないのは、切手世界のグローバルスタンダードを採用した結果(笑)なのかもしれず、また先に指摘したこの賞への評価が反映したものか、そこはどうなのか興味はつきない。