ジェームズ・ミルの英領インド論と人間改造計画


 下の本は未読。メモ書きとして。功利主義の徹底と英領インドの経済運営との関連(矛盾?)は興味を引くところ。ミルの英領インド論の基本はアダム・スミスのインド論(含む植民地論)とかなり一致している。岩波文庫の新訳版でいうと第3巻あたりに収録している話題。ミルではインドはイギリスなどとは違い自律的な発展ができない<理由はインドの人とイギリス人では人間が違うから>のでイギリスの植民経営によってこそ停滞から脱却するという認識があった。この種の論理は今日でも日本の旧植民地支配を正当化する論理として援用されているものと同一類型であろう。


Ungoverned Imaginings: James Mill's the History of British India and Orientalism (Oxford English Monographs)

Ungoverned Imaginings: James Mill's the History of British India and Orientalism (Oxford English Monographs)


この論文集もいたく興味をひく。


Utilitarianism And Empire

Utilitarianism And Empire


 サイードの影響(ちなみにサイードの『オリエンタリズム』ではジェームズ・ミルは守備範囲外)もあるのだろうが90年代になると古典派経済学者の植民地論とこの種の「人間改造論」的議論と関連させたものが多く現れた印象。上にも書いたことの繰り返しだが、植民支配することで、その被植民地域の住民の前近代的意識や構造的な隘路を変化することが可能である、という<オリエンタリズム>的見方。この見方への批判が90年代以降の古典派経済学の植民地論の主要ムーブメントかもしれない。


 父ミルだけではなく子どものジョン・スチュアート・ミルのインド論の関する研究も90年代から非常に活発化していく。ちなみに従来の古典派経済学者と植民地論の関連の古典といえばドナルド・ウインチの『古典派経済学と植民地』であり稀観本だが翻訳もある。最近の単行本としてはやはりLynn Zastoupilの関わる以下の著作か。


John Stuart Mill and India

John Stuart Mill and India

J. S. Mill's Encounter With India

J. S. Mill's Encounter With India


 ところでこの種の<オリエンタリズム>史観(といってもサイードジェームズ・ミルについては守備範囲外なので彼の史観の延長というよりも上記の「人間改造計画」的視座はわりと凡庸な見地である)で日本の植民地政策論を批判したのは、おなじみwの姜尚中氏であろう。



 彼の日本の植民地政策論は個別的なレベルで批判的検証に値する話題を提供していると思う。