白河桃子&常見陽平『女子と就活 20代からの「就・妊・婚」講座」

 ちょっと前に常見さんから頂戴しました。ありがとうございます。この新書は実に中味が濃いですね。本当に半期の就職関連の授業でつかえる教科書です。特に大卒の女子が、就職、妊娠、結婚など人生の三大転機を考える際に、それぞれをバラバラに考えるのではなく、合理的な思考で判断する際の基準や、参考事例・数字がわかりやすく提供されています。

 僕の所属する大学も世間的には、本書で出てきている「ノーブランド大学」(ただし全国の大学の8割ぐらいがそうですが)だと思いますが、女子の就活だけではなく、ノーブランド大学の学生全般にも役立つ情報が網羅されています。

 たぶんこの本は男子学生も読んだ方がいい。そのために常見さんの貢献もあるのではないでしょうか? 僕の時代にもこんな就職を切り口にした人生についての合理的な説明の本がほしかったと思います。若いころあったのはだいたい人生訓か、自分で考えるために世界に出よう、みたいなものでした 笑。

 いまは最低限の知識と戦略の「型」を学ぶこと、学ばせることが教育の基本ではないか、と思うようになっています。常見さんの監修している就職関係のDVDも新一年生には大好評なのはそんな基礎的な面をしっかりおさえているからでしょう。

 すぐれた中堅・中小企業の探し方のところは、ぜひ学生さんに読んで実践してほしいです。学内の企業研究会は最近は大規模なものから個々の企業まで幅広く行われていて、そこで採用がどんどん決まっています。当たり前ですが、その企業の学生を獲りたいという意欲とコストを払っていただける企業が必死にくるわけですから、そのチャンスの効用はとても大きいのです、本書の112-4頁は必読です。

 また業界、企業、職種を知ることや、営業職の掛け算式の法則のところなどもじっくり学生さんは読むべきだと思いますし、親、特に女子にとっては母親は敵でもあり心強い味方でもあるというくだりは、まさにその通りだと思います。一般的に親子間のコミュニケーションを大切にすることも就職活動の大きなキーポイントだと思います。

 後半の雇用の常識や法律の常識は、これも必要だけれども多くのキャリア関連の授業では二の次にされてきただけに重要な部分です。あえていえば、もう少し豊富に他の文献や関連サイトなども紹介していただいた方がいいと思いました。

 現実は厳しいよ、と冒頭での発言とは裏腹に、最後まで読むと不思議と明るい気持ちにさせられると思うのは、僕だけではないでしょう。

飯田泰之『思考の「型」を身につけよう 人生の最適解を導くヒント』

 「自由に発想してごらん」という教師は僕からみると最悪の教師に近い。最悪というよりも一種の「暴力」ともいえる……これは拙著『偏差値40から良い会社に入る方法』の結論部分だ。本書の問題意識も、この自由な発想という教育方法への疑問がベースにあるに違いない。

 「自由な発想」よりも大学の教育などは、思考の「型」を教えることに現実的な応用可能性の入り口がある、というのが本書のメッセージだ。しかもビジネスの現場では、経済学的思考の「型」は実に役にたつ。それを本書はいくつもの事例を紹介しつつ、軽快な筆致で説明していく。

 飯田さんの注意書き通りに、本書は経済学の副読本としての位置づけがいいだろう。そのためにも『飯田のミクロ』やここで紹介した飯田本(すでに新ジャンル)を読むことでも、思考の「型」の活用方法がわかるに違いない。

 特に考慮すべきコスト、考慮すべきでないコストを扱った後半は、ビジネスの現場だけではなく、社会問題を考える際のベースにもなるのでゆっくり読んでその「型」をマスターしてほしい。

 経済学は本当に大したことがない学問だ。だが、その一方で、基本的な「型」さえ身に着けば、これほど面白い学問はない。そういう「喜び」を得るために、本書は少なからぬ貢献をすることだろう。

思考の「型」を身につけよう 人生の最適解を導くヒント (朝日新書)

思考の「型」を身につけよう 人生の最適解を導くヒント (朝日新書)

sayaさんライブ&ニューアルバム『Fantasia』

2012年は、sayaさん、古谷ツネヒラさんと知り合えたのが収穫のひとつでした。そして今年一年の歌納め(といっても自分が歌うのではないのですが)で、実家からdoor to doorでわずか20数分のところでやっていたsayaさんのライブにいってきました。

家族連れが中心で、私浮いてました〜。しかもsayaさんに公演中にハゲネタにされてしまいました〜w あとでサインしてもらったときに「だっていじめたくなるんだもん」だそうですwwwwwww ブラック・saya出現w。やはり今年も変なフェロモン全開ですね、オレw

ライブ自体は今年のしめにふさわしい絶唱でした。「約束」はニューアルバム『Fantasia』の冒頭の曲で名曲です。みんなに聞いてほしい。

saya fantasia

saya fantasia

  • アーティスト: saya(Vocal),knob(Didjeridu、石笛、祝詞),ミッチー長岡(Bass),齋藤順(Contrabass),楯直己(Percussion、Vocal),塩入俊哉(Keyboards、Programing)
  • 出版社/メーカー: アクアレル・レコード
  • 発売日: 2012/11/20
  • メディア: CD
  • クリック: 1回
  • この商品を含むブログ (6件) を見る


名演奏を毎回聞かせていただく塩入俊哉さんとsayaさんと三人で。今年もいろいろな出会いがありました。

荻上チキ『僕らはいつまで「ダメ出し社会」を続けるのか』

 これから日本で生活する人たち一人一人がどのように社会を考え、どのように一人一人が社会を変えていくか、そのような小さな希望(期待)を支えにする、大きな見取り図の本である。

 いまは社会や公共に参加したり、社会問題を考えるといってもそれはひとりの人間の全存在を賭けたものとはなりえない。私たちは細切れの消費(参加)の世界に生きていて、その無数の細切れの消費対象(参加対象)の中から、いくつか自分の好みや関心や、かっては「社会参加への情熱」といわれたものを裏打ちして、消費(社会参加)の組み合わせを選んでいる。好みや関心が細切れになってきたのと同時に、時間や予算の制約ももちろん考慮されている。これは一種のポートフォリオ選択の発想に近い。

 ちょっと長々と自説を書いてしまったが、荻上さんのこの本は、そのような細切れ消費の社会で、社会をどのように変えることにコミットするか、その考え方の大きな見取り図を与えてくれる。

 本書はまず現代を「配り合い競争の時代」から「削り合い競争の時代」に変容したものとして捉える。これは長年のデフレ不況による事実上のゼロ成長ともいえる状況を政治や社会の面からとらえたものだろう。荻上さんはこのゼロ成長的な状況を「経済停滞宿命論」としてみなすことを拒否する。それと同時に、この「削り合い競争の時代」で見えてきた社会問題、というか私たちの社会問題への取り組みへの変化を「見取り図」として新たに提起する必要性である。このような必要性は、荻上さんのシノドスをはじめとする様々な社会な試みや、そして売春(ワリキリ)研究の蓄積などから自然と立ち現われてきたのかもしれない(本書の終りには荻上さんの取り組みが紹介されているので参考にされたい)。

 本書では、社会問題を「社会のバグ」を見つけ出す、という言葉として言い換えられている。そして社会を変えるという言葉を「社会をアップデート」しよう、とも。単に言葉が変わっただけではない。いままで「社会的弱者」として表現されてきた人たちを、「弱者とは「弱い人」のことではなく、「社会の在り方によって、弱らされたままにされてしまっている人」のこと」と定義をあたえ、それゆえに社会をアップデートする必要があるとする。なぜなら社会の変容の仕方によってたまたま、ある人(例えばあなたが)社会的弱者に陥ることがあるからだ。

これはこのとき社会的制度の「バグ」を発見し対応することが望ましい。なぜなら僕ら個々人が次の瞬間にバグのせいで、弱者になるリスクを抱えているからだ。いま使っているスマホやパソコンのバグに対処するのと同じだ。従来は、弱者は「人権」によって逆に定義されてきてしまった、ともいえる(歴史的には違うのだが)。「人権」を持ち出すだけでは、社会のバグに対処することは、もはや難しい。なぜならバグ対処に使える社会的資源の制約が厳しく、また人びとの関心も細切れであり、そのようなお金と時間がきついなかで解決しなくてはいけない。

荻上さんは社会のバグへの対処は、「功利的な包摂」と「倫理的は包摂」のふたつのレンズをかさねることで解決しなくてはいけないだろう、と指摘している。ここでユニークで説得的なのは、前者の「功利的な包摂」だ。「あなたにとっても社会にとっても得になる」という発想だ。この発想の延長上に、社会疫学的な思考の重要性がでてくる。つまり社会問題の原因やその広がる理由、そして対処法を、早期発見(予防アプローチ)、早期対処(対処アプローチ)としてとらえる考え方である。その基本は機会費用に思いをめぐらすことなど経済的な計算が前提になっている。あくまでも社会と個人の得をベースにしているのだ。

問題は、いろいろある。細切れ消費社会が前提だとすれば、社会的バグも無数にあり、それに関心や対処することができる消費(参加)時間も細切れ(というよりも細切れのある種の組み合わせ)でしかない。重大なリスクも細切れの消費の中で見えなくなっている可能性もある。というかその可能性が大きいというのが本書のメッセージでもある。

そのときにどうするか? 本書では明示的な方向が示されている。それは「荻上チキ」の活動をみよだ。専門家(社会的バグにずっと関心を割く人)とふつうの人(細分化した消費・参加しかできない人)の中間にたって、両者を結び付ける人だ。このような存在をかって、編集者(よき触媒)とかツボを知ってる人(このエントリーを参照)として社会は理解し活用していた。

本書でもそのような専門人とふつうの人を結ぶツボを得て、そのツボを知らせることに情熱を傾ける人がいること、その存在の重要性に気づかせてくれるだろう。

ダニー・ラフェリエール『ニグロと疲れないでセックスする方法』

 藤原良雄社主から頂戴しました。ありがとうございます。小包を開けてまず題名にはっとした。80年代の国際都市カナダのモントリオールを舞台にした若い黒人男性ふたり(移民のふたり)と周辺に住んでいる白人の女の子たちとのセックスと性的な妄想の日々をときにはコラージュ風の文体、時には哲学的な思索を混在させながら、しかも軽快なリズムで書ききっている。面白い。この雰囲気は、作者もたびたび言及しているヘンリー・ミラーの初期作品『暗い春』『愛と笑いの夜』などを思い出させる。しかもそれよりも格段に、僕らの現代に近い。

ニグロと疲れないでセックスする方法

ニグロと疲れないでセックスする方法

特集「無常」『サンガ・ジャパン』12号

 編集から頂戴しました。ありがとうございます。ついに四連続サンガ投稿です(笑)。最新刊の12号は、毎号思うのですが、こういっては失礼ですが、俗界に煩悩ありまくりな人たちといいますか、かなりクセの強い人選で対談やインタビューが構成されてますね(僕に言われたくないか 笑)。今回もしりあがり寿田口ランディ石井光太福岡伸一氏らの個性が光ります。

 しりあがり寿氏のインタビューは彼の作品世界で感じる無常感がやはり大きなテーマでしょうか。特に災厄ものともいえる『方舟』『ジャカランダ』など、そのような無常感が顕著です。インタビューでも「生きてることがレアケース」という彼の人生観との関連からその面に光が当てられてますね。田口ランディさんはこのまえ、尊厳死のシンポで初めてお話を聞きました。作品はまだ読んだことがないのですが、今回の対談中では、禅僧の方よりも彼女のエピソード(お兄さんの自死)に心が騒ぎました。また石井氏と気仙沼の住職片山秀光氏との対談は、震災以降の気仙沼の状況を伝えるものとして心が痛みます。

 論説なのですが、末木文美士氏の「震災後と仏教の語り」がとても優れているように思えました。大震災についてのアムボムッレ・スマナサーラ氏とダライ・ラマ氏の両者の被災した人々へのメッセージを利用して、いまの仏教がどのように世界の現状とむきあっているのか、その思想的ともいえるするどさを伝える内容になっていると思います。非常に勉強になりました。

サンガジャパン Vol.12(2013Winter)

サンガジャパン Vol.12(2013Winter)

方舟

方舟