軍事ケインズ主義(?)とロシア

ロシア経済が軍事経済化したため、その軍事支出によって景気が浮揚していて、完全雇用が実現し、インフレはひどいものの、かなりの経済成長を達成している、というのが「ロシア経済を軍事ケインズ主義的にみた見解」だろう。

 

短期的には高い経済成長率を高いインフレ率という犠牲を払って達成しても長期的にはロシア経済は、軍事部門への依存がもたらす民間経済の衰退(同時にインフレ&強制貯蓄や増税などでの消費低迷)と、資源依存の歪みをさらに深刻化させていることは明瞭だろう。だが短期的にはプーチン大統領の強気をある程度は裏付けているようでもある(2月後半での一般教書演説など)。

 

それはさておき以下が2022年のGDPランキング

 

さらにFT紙がIMFからまとめた2023年と2024年の予測。

ロシア経済について以下では、いつものように自分にだけ役立つメモ書きをする。他人の便宜などは関心ゼロである。

 

ロシア経済の最新の概況は、政府の月例経済報告の資料が役立つ。自分でデータを掘り出すのは簡単だが、それを他者にわかりやすくグラフ化するのは手間がかかるので、こういう政府の資料は毎回ありがたい。もっともそれをどう解釈するか、あるいはデータで隠れているもの、読み落としがちなものを見るのも仕事ではある。

https://www5.cao.go.jp/keizai3/getsurei/2024/02kaigi.pdf

 

 

ロシアの人口については以下の記事が面白い。

ロシアの人口動態 | 時代の論点 | 一橋大学 HQウェブマガジン

特に「ロシアの十字架」の存在が興味深い。つい近年までロシアは死亡数の方が出生数を上回っていたのだ。この記事は2018年までなのが注意必要だが、それがウクライナ戦争でどう推移するかは要注目だ。また記事では死亡数の多さは、アルコール消費と社会的変化へのストレスと結びついている。以下記事を引用。

この要因もウクライナ戦争でどう変化しているのか注目すべきだろう。またロシアの人口構造で、記事中にある人口が少ない若年層が、再生産期に入るやまもなくウクライナ戦争で動員されているはずである。それが今後、ロシアの人口動態にどう影響するのか。あとで他の資料をみつける予定だが、興味深い。

 

またロシアの足元での経済成長が通説(田中含む)とは異なり、消費や設備投資が主導している。これはおそらく2023年第一四半期における政府支出の乗数効果の帰結だろう。その政府支出の多くが軍事支出である。これが軍事ケインズ主義の表れである。つまり民間の自律的な消費や投資増ではない。軍事部門依存経済である。以下の2023年の産業別生産動向をみてもその点は明らかである。

 ざっとロシアは国家予算の3分の1を軍事費に充てている。これには軍事物資の生産だけでなく、軍人やその家族への戦争関連の社会的支払い、占領地への支出も含まれる。

 

 

 

他方で資源依存の方はどうだろうか?

これも政府の資料を利用すると、簡単にいえば1)中国・インド依存が鮮明、2)エネルギー価格は制裁などで低水準だが、石油・天然ガス収入自体に大きな落ち込みはない、ようだ。

 

 

またブルームバーグEUから制裁品目がその総額の四分の一がEUから、残りが中国や旧ソ連諸国を中継してロシアに輸出されているとしている。

ロシア、EUから制裁対象品目の大量入手を継続-当局者 - Bloomberg

 

他方でブルームバーグは米国などの制裁措置の強化がさらに影響を強めているという記事もあげている。ここらへんは2024年の推移をみる必要がある。

ロシア原油のタンカー多数が運航停止、米制裁強化が効果示す - Bloomberg

 

物価問題はロシアを普段から悩ませているが、現状も徐々に高騰している。政府の公式発表ではないが、プーチン政権は「戦時増税」を計画しているらしい。これはインフレ抑制にきくかもしれないが、他方で戦時ケインズ主義的とはいえない政策になる。もっともそれをさらに軍事支出拡大につかうとすれば、さらにインフレを高める形になる。ちょっと政策的には分けわかめだが、軍事支出の財源確保ではありえるかもしれない。プーチン政権が具体的に決めてからまた考えてもいい話だ。

プーチン政権「戦時増税」検討 所得税最大20%に―ロシア報道:時事ドットコム

 

 

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