中国経済メモ:全人代の閉幕をうけて

中国の経済政策に注目が集まっている。理由は、中国経済の様々な原因(デフレ懸念、消費低迷、不動産市場の不況、米中貿易摩擦の不透明性)による経済失速にどの程度対応できる予算措置が行われるかが注目の的だった。結果は予算規模は拡張的ではあるが、GDP比でいってもまた問題の深刻さに比しても不十分だというのがおおかたの評価だろう。個人的には、中国の低迷は政策の失政によるものだが、この予算規模では本格的な低迷離脱ではなく、せいぜい間に合わせの弥縫策的なものにしか思えない。以下では自分で参考になる資料をリンクする。コメントはつけたりつけなかったりで、あくまで自分目線なのはことわりをいれるまでもなくいつもの通りである。

 

まず中国のそもそもの「国家予算」について。以下の文章が参考になる。

中国の予算法改正と財政ガバナンスの強化(2015)。

https://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_9111093_po_02630010.pdf?contentNo=1

引用:「(予算の構成)
 中国の予算は、①一般公共予算、②政府性基
金予算、③国有資本経営予算、④社会保険基金
予算の 4 本で構成される。一般公共予算は、日
本の一般会計に相当する。政府性基金予算は、
特定の公共事業等のために用いるもので、日本
特別会計に相当する。また、国有資本経営予
算は、国有企業など国有資本の収益に対する支
出計画を定めるものであり、社会保険基金予算
は、社会保険収支専用の予算である。この 4 本
の予算は、それぞれ完全で独立したものである
と同時に、一般公共予算と他の 3 本の予算は連
結したものでなければならない。(第 5 条、第
6 条、第 9 条、第 10 条、第 11 条」

 

つまり連結した「国家予算」は四つの項目からなる。

Tianlei Huang (PIIE)による今回の2024年予算とその評価は妥当な線であろう。この論説の内容をしばらく追う。

https://www.piie.com/blogs/realtime-economics/2024/chinas-2024-budget-turns-expansionary-will-it-be-fully-spent

 

2020年以来、久しぶりに名目GDP比での政府支出が増加したというが、図表でもわかるが微増である。政府支出自体は10%前年度比増だが、名目GDPの拡大しているため、同比率だとそれほどの増加ではなくなる。中国のヘッドライン予算つまり一般公共予算(日本の一般会計)と連結予算の伸び率はそれなりの急増である。

2020年のコロナ禍初年度以来の急増といっていい。また注目すべき点は、中国が「超長期的国債」を発行し、不振な不動産市場に代わる新しい産業育成(これは西側諸国とかわらないAIや電気自動車などへの投資)やまた長期的なさまざまな投資計画(イノベーション、人口政策、都市と農村の格差是正など)への支援である。

 

また政府性基金予算は、地方の財政赤字の負担を軽減するために中央政府が肩代わりをするという方針を示しているという。この点はすでにマスコミが予告していたものだ。総額はの8,710億人民元(日本円でざっと17兆円超)で前年度比80%増である。記事によると、いままで政府性基金予算は全額、地方政府の裁量にまかせていたが、今回はかなりの部分を中央政府がしきるとされる。ただし規模は全体のわずか。

 

中国の予算ルールの収支均衡原則から、予定された政府支出が行われない可能性が大きい。つまり予算時点で規模が上記のように巨額でも、実際には税収に見合った支出した行われないので政府の財政政策が不況に対して機動的たりえない。記事は今年も失敗に終わる可能性を示唆。

 

税収不足が今年も起こりうる潜在的な理由は、不動産市場の回復を楽観視していること。政府性基金予算における土地売却収入を楽観視して計上。また地方政府が予算を使い切らない問題がある。地方政府は2024年末までに3兆9,000億人民元の特別債枠をすべて使い切らないだろうと記事は指摘。昨年度も使い切っていない。理由は利払い<予想収益という公共事業の不足(裏面での従来の公共事業のやりすぎ問題)。

 

マーティン・ウルフも最新の論説は中国についてである。そういえば、彼の新刊を読み忘れてるw。あとで読むか。

The future of ‘communist capitalism’ in China

このウルフの論説では、鄧小平時代の高度成長の負の遺産(腐敗や格差など)を問題視した習近平体制の取り組みは必然みたいな感じで書かれている一方で、それが中国の民衆の生活水準上昇への欲求の声とは異なり、後者がまだ勢いがあるという感じで説かれている。図表は多く便利だが、論説では明示的に連動してはいない。個人的にウルフ氏の書いた論説はあまり参考にならないのが多いんだがw、僕のまわりではファンも多い。ひとつだけ参考なる図表を。

これは日米中の株価総額とGDP比率だが、中国の停滞が最近は顕著であるというが、GDP比なので注意が必要である。中国のGDPの増加を勘案する必要がある。

 

株価といえば、最近の田村秀男さんの最近の論説の図表が便利だ。

株価に見る日中の明と暗 田村秀男 - 産経ニュース

図表は上記リンク先をみていただくことにして、以下の田村さんの記述が参考になるので貼っておきたい。

 中国から日本へのリスクマネーのシフトがよくわかる説明である。

 

嶋津洋樹さんの以下のコメントも同意。

国務院法改正では中国人民銀行の位置づけがさらに小物??化されて、共産党の一部局的なレベルがより鮮明化して先進国との違いがよくわかる。

中国全人代が首相会見なく閉幕 透明性低下、42年ぶり国務院法改正で党指導強化 - 産経ニュース

上記とは直接の関係はなく、むしろ日本の自動車メーカーの中国市場依存⇒競争で負けて縮小モード⇒各社の純利益に影響を及ぼす中国市場「撤退」リスクという記事。

日産、中国の生産能力3割減へ BYDなど現地勢が台頭 - 日本経済新聞

ただEVシフトがこのまま世界的につづくかどうかは不透明であると思う。