論説「コロナ禍でも踏ん張れるアベノミクス2800日の「レガシー」」by田中秀臣in iRONNA

毎週の論説です。今回は、安倍総理の2800日の貢献を、経済政策に絞って書いてみました。もちろん「失政」もあるのですが、この論説では評価すべき点を詳細に書きました。そして最近の病状を心ない仕方でとりあげる人たちを批判しています。ぜひお読みください。

 

(2022.7.9追記)iRONNAが終了してしまっているため、元原稿をそのまま掲載します。題名は、毎回そうでしたが編集サイドの判断だけでつけたものです。以下の題名はもともと私がつけたものです。

 

総理大臣、連続在任最長とアベノミクス

 安倍晋三首相の連続在任記録が24日に2799日の史上最長になった。安倍首相の大叔父にあたる佐藤栄作元首相を抜く記録である。佐藤政権の時代は高度経済成長の後期にちょうど該当し、筆者もその時代はよく記憶している。特に政権の最終局面では、国内のマスコミや世論から単に長期政権だというだけで批判をうけていた側面がある。国外ではノーベル平和賞をはじめ、経済大国に押し上げた経済政策を評価されているのと対照的だった。
 現在の新型コロナ危機でも、その経済対策と感染症抑制についての評価が、国内外でまったく異なることは、前回の論説でも説明した。筆者は常に政策ごとにデータと論理で評価することに努めている。100点満点も0点も政策にはありえない。しかし多くの人は全肯定か全否定しがちである。それは愚かな態度であるが、おそらく本人に指摘しても変わることはないほど強固な認知バイアスだ。筆者の周囲にも「私の直観や感情では安倍首相は悪い人」といって、どんなに論理や事実を提示してもその意見、いや「感情」の変更がない人は多い。この人たちの多くは、テレビのワイドショーや報道番組の切り口に大きく影響されてしまう。「ワイドショー民」としばしば呼ばれる人たちだ。
 このような感情的な反感がベースにあるワイドショー民が増えてしまうと、そこでは政治家の「人格」」も「健康」も軽く扱われてしまう。要するに非人道的な扱いの温床になる。安倍首相のケースでいえば、ここ二回の慶應病院への受診やまた新型コロナ危機の前後から続く、過度な勤務状況だ。心無い反安倍系のマスコミ関係者や野党、そしてそれに便乗している反安倍的な一般人の人たちの、まさに醜悪といっていい発言を最近目にすることが多い。
 この人たちはおそらく人を人と思っていないのだろう。どんな理屈をつけてきてもそれで終わりである。議論の余地はない。ましてや国会で首相の健康の状況を政争の論点にしようとしている野党勢力がある。そんなレベルだから、いつまで経っても低支持率なのだ。心ある人達で、きちんと政治を見ている人もまた多い。
 文化放送「おはよう寺ちゃん活動中」の8月24日の放送で、経済評論家の上念司氏が、「野党が(首相は)休むんじゃないとかひどいことを言っている。この健康不安説を流しているのは野党とポスト安倍といわれる政治家の秘書ではないか」と推論を述べている。首相の健康不安を過度に煽り、それを政争にしていく手法は、本当に醜悪のひとことである。この手の政治手法に「よくあること」などとわかった風のコメントをする必要はない。単に人として品性下劣なだけである。
実際には一寸先は闇なのが政治ではあるが、それでもここまで長期政権を続けていくのは、民主国家の日本では、もちろん国民の支持がなければありえないことだ。この連載でも常に指摘していることは、安倍政権が継続してきた主因は、経済政策の成果だ。新型コロナ危機を一般化して安倍政権の経済政策の成果を全否定する感情的な人たちもいるが論外である。もちろん景気下降の中で消費増税を昨年行った「失政」がある。またさかのぼれば、さらに経済失政は二点ある。14年の一回目の消費増税、そして18年前半にインフレ目標の到達寸前までいったにもかかわらず、財政政策も金融政策も事実上無策だったことだ。ただし、今日で2800日を迎える中で、新型コロナ危機以前の経済状況は、雇用を中心に大きく前進した。「長期デフレ不況」のうち「不況」の字がなくなり、「長期デフレ」だけが残っていたのが、昨年10月以前の経済状況だっただろう。
このことは経済に「ため=経済危機への防御帯」を構築したことでも明らかである。安倍政権の経済政策(アベノミクス)の防御帯は主に三点ある。1)雇用の改善、2)株価、不動産価格など資産価格の安定、3)為替レートが過度は円高に陥ることがないこと、である。これらのほぼすべてを事実上、アベノミクスの三本の矢のうち金融政策だけで実現している。急いで付け足せば、ここに積極財政の成果も加わればインフレ目標も早期に実現でき、経済はさらに安定化しただろう。
雇用の改善は、政権発足時の完全失業率が4.3%で、新型コロナ危機前には2.3%にまで低下していた。現状は2.8%と悪化しているが、あえていえばまだこのレベルなのは経済に「ため」があるからだ。有効求人倍率も0.83倍が、新型コロナ危機で直滑降的に悪化しているものの1.11倍で持ち堪えているのも同じ理由による。もちろん「ため」「防御帯」がいつまで持続するかは、今後の経済政策に大きく依存する。このような雇用の改善傾向が、若い世代の活躍の場を広げていき、また高齢者の再雇用、非正規雇用の人たちの待遇改善、無理のない最低賃金の切り上げなどを実現していった。朝日新聞は、御厨貴東大名誉教授に、歴代最長政権になった24日にコメントをもとめ、「政策より続いたことがレガシー」という記事を掲載していた。いまの朝日新聞の主要読者層にはうけるかもしれないが、この7年にわたる雇用の改善状況を知っている若い世代にはまるで理解できないのではないか。
日経平均株価は政権前の1万230円から現在は2万3千円近くでこのコロナ危機でも安定している。また為替レートも1ドル85円台の過剰な円高が解消されて、いまは105円台だ。これらは日本の企業の財務状況や経営体質を強化することに大きく貢献している。
だが、24日の各紙朝刊では、日本経済新聞や読売新聞では、あいかわらずこの新型コロナ危機であっても財政規律やプライマリーバランスの黒字化の先送りを問題視する社説や記事を掲載している。産経新聞は、比較的アベノミクスの貢献を詳しく書き、消費増税のミスにも言及している。ただ今回は別にして、産経新聞も財政規律的な論評をよく目にすることは注記する。他にもツチノコのような新聞があったが今はいいだろう。これらのマスコミは経済失速を問題視しているのに、他方でその主因である(消費増税などをもたらす)財政規律=緊縮主義を唱えているのだ。まさに論理的にめちゃめちゃである。
感情的な印象論で決めがちなワイドショー民たち、健康を政争にすることを恥じない野党勢力、不況を責めながら不況をもたらす財政規律を言い続けるめちゃめちゃマスメディア、こんな環境の中で、よく2800日も政権を続ける強い意志を持ち続けたと思う。これれは「偉業」だと率直に評価したい。