映画『21世紀の資本』、新型コロナウィルス危機後を考える上でも参考になる作品

現在は映画館、そして配給会社受難の時である。映画『21世紀の資本』を都内で上映しているアップリンク吉祥寺さんも観客の減少に悩んでいる。この状況があと数か月も続けば、日本の映画文化のインフラが大きく損なわれてしまうのではないか、とても心配している。

 

映画『21世紀の資本』はこの感染症拡大と経済危機に直面する日本と世界の今、まさに上映されるにふさわしい映画だ。まだはっきりと見えていないが、この問題の終結時には、おそらく世界の社会と経済の在り方はまた大きく変容しているだろう。そのときにこの映画は、非常にいい指針を与えるに違いない。

 

理由はふたつだ。

1)18世紀から21世紀までの経済格差をめぐる簡潔な見取り図を提供していること。しかも記録映像、映画、インタビューを巧みに配置しながら、飽きることはない。

2)21世紀のこれからを理解する様々な現象のうち、GAFAなどの巨大企業の課税逃れ、タックスヘイブン問題、中間層の縮小、高額の奨学金負債を抱える若年層の問題、19世紀並みになりかねない高所得者層間の巨額の相続とそれがもたらす深刻な経済格差

 

といった過去と現在の問題が照応されて、難しい話を映像を利用することで実にわかりやすく解説している。レベル的には高校生でもわかるだろう。

 

この映画のベースになった経済書21世紀の資本』の著者トマ・ピケティが唱える対処法は、累進資産税がベースである。これが税収の安定=経済の安定をもたらし、資本の高収益率が、次世代の有益な教育投資、研究投資にむかえば、修正された資本の力は希望をもたらすかもしれない。しかしそれには現状を問題視する多くの人たちの声が必要になる。

 

この映画では、心理学者のポール・ピフが指摘したように、富めるもの、成功した人はそれが実はたまたま運がいいことを認めることはせず、自分の実力だと信じ込み、そして失敗した人を見下すか無視するようになるという研究は興味深い。この心理学的な研究をベースにした経済学者のロバート・フランクの本も翻訳されている。

 

また中国の国家資本主義の行方は今後の大きな問題だろう。映画では上海か北京かの中国人たちの多くがマスクをしている。それは大気汚染の予防なのだが、現在の状況を考えると重要な符牒にも思える。中国問題はこの映画でも十分に検討されているとはいえないオープンクエスチョンだ。同じように資本主義は人間の労働に依存せずに、機械とマネーの世界だけで拡大していく。機械はやがてすべての労働を人間から奪うかもしれない。マネーの世界は一部の人のもので、それゆえに機械も一部の人が独占するだろう、と未来展望も提示しているが、ここもどうなのか議論が白熱するところだろう。

 

蛇足だが、ケイト・ウィリアムズがなかなか魅力的で女優のようだったが、検索したら実際にもラジオやテレビの出演が豊富なようだ。

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