マーシャルとマルクス

アルフレッド・マーシャルカール・マルクスの比較というのはやられているようでほとんどスルーされている領域かもしれない。八木紀一郎先生の資本理論からの比較と、あとはカーの古典『マルクス、マーシャル、現代』が明示的で、他にはジョーン・ロビンソンがあるぐらいか? 明示的な比較でなければもっとあるかもしれない。

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マーシャルとマルクス

以下はカーの本をベースにしてすこし整理してみたもの。またアレンの「エンゲルスの停止」をベースにして、マルクスとマーシャルとの時代把握の違いが理論の違いに通じたかもしれないことをみていく。マルクスはもろ「エンゲルスの停止」を背景にしているが、マーシャルは「エンゲルスの停止」以後で、労働者の実質賃金が上昇トレンドに移行し、さらに貧困、窮乏よりも経済格差が問題化していく。

時代背景の違い:
 「エンゲルスの休止」→マルクス →労働者階級の貧困(資本家階級の搾取と疎外)
  「エンゲルスの休止」以後 → マーシャル → 資本家階級と労働者階級の経済格差

 

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クラーク・カー『マーシャル、マルクス、現代』(1969)


 1:階級なき社会と人間の完全性、2:資本主義の将来、3:階級闘争と階級協力、4:労働組合と集団利益の四つの観点から両者を比較。カー自身の主張(多元社会)はそれ自体示唆に富むがここでは省略。

 

1について
 マルクス  社会秩序の改善→人間性の改善
 マーシャル 人間性改善→社会秩序(物質的福祉)改善→人間性の改善
    マルクスとマーシャル:国家の位置、企業家の位置づけの差異
 

2について
  マルクス 資本主義は崩壊する(利潤率低下&労働者の機械代替(失業と疎外)→恐慌→資本主義終焉。実質賃金は低下(エンゲルスの休止)。
  マーシャル 失業は激化しない。機械は福祉向上に役立つ。実質賃金は上昇トレンド(エンゲルスの休止以降)。
  マルクスは人的資本の蓄積の認識ない。マーシャルの人的資本の蓄積からの資本主義の将来への楽観的ビジョン。


 3について
  マルクス:階級対立
  マーシャル:階級は固定的ではなく、「階層」間の移動がある←人的資本重視の見方との関連。企業家と労働者のコラボ。


  4について
  マルクス労働組合を階級的観点でとらえる
  マーシャル:市場での交渉での役割。

 

カーは、マーシャルにもマルクスにも経済制度の進化を考える側面があったことを重視する。マーシャルの楽観主義の修正。労働者の待遇改善の可能性は正しい、他方で失業の事実上の無視はおかしい→ケインズとの関係。