馬場啓之助『資本主義の逆説』メモ

 ちょっと前に福田徳三研究会で、馬場啓之助『資本主義の逆説』(1974、東洋経済新報社)の話題が出たのでその読書メモなど。

 馬場啓之助は一橋大学名誉教授だった人。彼の書いた『マーシャル』や『近代経済学史』は便利。特に後者は、オーストリア資本論、スラッファからの独占的競争理論の歴史の俯瞰に優れて類書が日本ではいまだにない名著。『資本主義の逆説』は中央労働委員会の公益委員の経験を踏まえ、資本主義の変貌について書いたもの。特に前半の議論は今日でも示唆に富む優れた内容。以下は網羅的ではなく、自分のためだけのメモ。

1 「資本主義の変貌を「資本主義から労働主義への移行」に注目」(1頁)。「労働主義への平和的移行は経済思想史にとってはまことに重大な問題を提起しているわけです」(7頁)。

2 マルクスジョーン・ロビンソンの資本主義崩壊論。ウェッブ夫妻のコモン・ライフの社会観&ナショナルミニマムの政策観。フェビアン派、ケインズシュンペーターらの資本主義観の検討。
 「「ケインズ派福祉国家」というのは、このような背景と内容をもったものです。それは単に失業をなくすというだけではなく、防貧の措置をそなえて、国民社会のバランスを保持しようとするものでした。この福祉国家は、フェビアン派社会主義者が立案し、新自由主義者が実現したものともいえましょう」(37頁)。

 ガルブレイスの拮抗力理論の意義(参照)。ウェッブ的な賃金観の影響。高賃金の哲学は、賃金の社会性と高能率賃金のふたつの特質からなる。
 「それは、能率給というよりも生活給に近い賃金のあり方と結びついたのです。それは、高能率だから高賃金を要求するというのではなく、生活水準が一般的に上昇してきているから、これに遅れないように生活を送れる賃金を保証しろという要求と結びついているのです。だから労働主義の要請は、能率給よりも生活給と結びついているといえましょう。事実、このような賃金形態の変化が起こっていたのです」(42頁)。
 
 オートメーション化→個々人の能率給→職務給・職能給へ。「個人としてではなく、職場における労働者集団内での位置づけに対応して賃金を決め」る体制へ。

3 「資本主義」の用語。マーシャル:「自由競争」「私有財産制」。ゾンバルトが最初(わりと常識)。
 資本主義の逆説
 1)資本主義を追求すると資本家の発言低下し、経営者主義へ
 2)労働主義へ。
 3)1,2で内実変化しているのにいまだ「資本主義」としている形容の逆説。実はいまの資本主義は、馬場によれば、産業主義である。産業主義とは、業績主義、合理主義、職能主義によって支えられる社会体制である。
 他に本書では「対抗的ナショナリズム」という言葉がでてくるので、ちょっとそこが興味をひいた。用語の使用としては最初期?

資本主義の逆説 (東経選書)

資本主義の逆説 (東経選書)