かわいそうな「反安倍感情」を持つリフレ志向な人たちの枝野“反緊縮”期待

 民進党代表選で、かわいそうな現象が起きている。

 おそらく政治的イデオロギー、党派性根性、そして嫌悪感などから、反安倍感情を持っていて、なおかつリフレにもある程度の理解を持っているか、あるいはリフレ派と目される人の中に、あろうことか枝野幸男氏が“反緊縮”よりになったといいだす人たちがでているからだ。

 あらためて党派根性や政治イデオロギーは怖いなと思う。

 わかりやすく結論から言うと、いまの日本の経済を“縮小”に向かわす政策、つまりアベノミクス以下でしかない政策はすべて“反緊縮”である。こんなのは当たり前である。いいかえると、いまのアベノミクスと同じかそれを上回る経済政策ではないかぎり、いまの日本ではすべて“緊縮”しかもたらさない。

 枝野氏すごーい、少し期待がもてるー、というのは結構というかどうぞご勝手に。しかし彼の政策をいま採用すれば100%の確率で、日本経済は現状よりも低下する。それがなんで“反緊縮”なんだ? 

 例えば松尾匡さんの発言もその意味では、何を考えてるんだろうか? というものである。

「枝野さんが多少反緊縮的なことをおっしゃるようになったのは、ちょっとはこれが影響したのかな?」
http://matsuo-tadasu.ptu.jp/

 松尾さんの『この経済政策が民主主義を救う』には、アベノミクスを超える政策メニューが紹介されている。それはまさに反緊縮なのだ。だが、枝野氏の政策メニューは、彼を依怙贔屓したい人には“反緊縮”にでも見えるのかもしれないが、日本経済を再び失速させるための必要十分のメニューでしかない。ちなみに以下の枝野氏の発言(消費増税先送りを含めて)は、松尾さんの文章を読む前から彼はいっている。

しかもより日本共産党の政策に近くなっているだけだ。

共産党も消費増税に反対し、他方で金融緩和には反対である。枝野氏は日本共産党など野党共闘を目指すというが、そのために共産党がのりやすい政策を考えたと思われる。しかしいつから共産党の政策は、「反緊縮に一歩進めた」政策になったのだろうか??

再度強調するが、枝野氏の政策メニューは、日本経済にとってどうみても緊縮に作用する。

前原よりましだろうって? あなたがたは、日本経済のことを心配したいのか? それともウンコ味のカレーの食べ比べに参加したいのか? 申し訳ないが、前者で考えられない人は、政治的イデオロギーの罠にはまっているとだけ言っておきたい。

 さて以下が、枝野氏の経済政策のまとめである(彼の表現ではなく私の用法で書き換えている)。 

 デフレを脱却しないままで金融緩和をやめて早期の出口戦略をとる

 インフレ目標2%を引き下げて1%にして、日本銀行のリフレ政策の根幹を否定する

 公共事業を削減して、他方でその見返りを含めて保育士・介護士の給料だけをあげる

 補正予算ベースの上記の賃上げなので、早期の(デフレを脱却しないままでの)出口政策の採用と同時にその賃上げ政策も終わる

 インフレ目標政策の効果を毀損して、他方で将来の消費増税には強くコミットしたままとする

以上が、枝野氏のマクロ経済政策にかかわる部分を整理したものである。

これが“反緊縮”よりに歩みだしたと思えるのだろうか? 事実上、日本共産党の政策<消費増税反対、金融緩和否定>と同じになることが“反緊縮”に一歩すすめることになるのだろうか?

さて「赤字国債ファイナンスする財政拡大なのでリフレよりだ」というどーでもいいマイナーな論点についてみておく。

枝野氏は“赤字国債”で保育士や介護士の給料を上げるっていってるので、“反緊縮”に一歩すすめている、という人がいるという話だ。

ここで枝野氏のいう“赤字国債”は、日本独特の表現のひとつだが、要するに建設国債で足りない予算を補う分に対して発行されている特例国債のことである。

以下は財務省のグラフだ。民主党政権の時代は2009年後半から2012年いっぱいまで。財政ベースでいえば、平成22年度予算から平成24年度予算までは少なくとも責任を問えるはずだ。このとき財政規模はどうなっていたか? 実は急拡大している。さらに赤字国債特例国債)も急上昇だ。残高ではなく新規発行の推移であることに注意。

https://www.mof.go.jp/jgbs/reference/appendix/hakkou03.pdf

上記から抜きだしておく。単位は億円。赤字が民主党政権時代の期間。緑の囲みが赤字国債特例国債)の発行額だ。

さてこのように財政規模も赤字国債の規模も増大したが、他方で雇用状況も経済状況もまたデフレも悪化し続けた。おっとそこの人、なにも財政政策の効果がないといっているのではない。何度も何度も強調して疲れてきてるのだが、金融政策の転換があってこそ財政政策も効果を働かせるのだ。その効果が現れたのは、安倍政権になってからだ。ほとんど同じ財政規模かまたは(これはこれで大問題だが)縮小しているのに、雇用も経済状況も民主党政権時代(というか過去20年の他の政権に比べて)よりも段違いの高いパフォーマンスである。

それは簡単にいえば、いまも書いたように、金融政策の大胆な転換があってこその財政政策なのだ。これを金融政策と財政政策の協調といっていい。

だが、話を戻すが、枝野氏の経済政策は、金融政策を毀損し、手じまいし、そしてそこで一時的に財政政策を吹かそうとしている。これは旧日銀の金融政策が続いていた状況よりはるかに悪い。なぜなら日銀のリフレへのコミットメントが毀損してしまい、おそらく市場がリフレを信認することは難しくなる。

さて、それでもあなたは枝野氏の政策が、いまより日本を反緊縮の方向に一歩すすめると期待するのだろうか?

もう一度いう。いまの状況をより悪化させる政策がなんで反緊縮(への第一歩)なんだろうか? と。

補足:介護士や保育士の給料はあげるべきである。もしそれを僕が否定しているとでも解釈したら、悪意か愚かかの二択でしかない。念のため。