飯田泰之『マクロ経済学の核心』(光文社新書)

 飯田さんのミクロ経済学の簡潔な副読本『飯田のミクロ』と対をなすマクロ経済学の副読本『マクロ経済学の核心』(光文社新書)を拝読。

 端的に素晴らしくいい。お世辞ではなくよく考え抜かれた名著だと思う。さまざまなマクロ経済学の副読本や初心者向けの啓蒙書があるが、その中でも最上位のものであることは間違いない。

 特に長期理論である経済成長理論(ソローの新古典派、内生的成長、ハロッド・ドーマー型など)と短期のケインズ経済学との架橋として、ヒックス的な景気循環論でブリッジしているのがユニークかつ大胆でもある。

 成長理論が趨勢的なトレンドをしめし、ケインズ経済学が短期の変動を説明するとして、多くの教科書は両者を併置していて、あまりうまくブリッジできていない。特に初心者用の解説だとそもそも短期と長期をどう接続するかという問題意識さえも希薄である。

 だが、この飯田さんの本は「中期」的な枠組みに意識的である。そのブリッジにヒックスの景気循環論を活用するというアイディア、さらにそれを現代の日本が経験したこの30年あまりの経済状況と何気に照らしあわせるその記述もキャラが立ちまくっている。

 このように「中期的」な領域に自覚的なのは、より上級のブランシャールの『マクロ経済学』ぐらいであろう。またコラムではトランプ政権の経済政策の評価、日本銀行の金融政策の評価、地方経済論など、飯田さんならではのテーマのセレクションが行われて、時事的な課題への接続の見晴しもいい。

 正直、私のようにすでに入門・啓蒙レベルのテキストに飽食ぎみ(笑)の読者でもとても楽しめた。たぶん飯田さんの書いたものの中でも『歴史が教えるマネーの理論』と双璧をなすものではないかと思う。

マクロ経済学の核心 (光文社新書)

マクロ経済学の核心 (光文社新書)