立岩真也・尾藤廣喜・岡本厚『生存権』

 生存権を正面からテーマにした本というのは驚くほど少ない。本書は2009年に出された上記三者へのインタビュー形式の書籍だが、加えて朝日訴訟以来の代表的な「生存権」に関わる判例が掲載されていて便利である。日本国憲法第25条のいわゆる「生存権」の規定をめぐって、それを挑戦的に見直そうというのが立岩氏の立場であろう。端的にいうと「最低限度」を見直してさらに上の水準を目指すものに憲法自体も書きかえる(そのような市民的意識に持っていく)というのが、彼の態度であろう。

 本書で最も中味が充実しているのが、尾藤氏のインタビューの部分であり、氏が旧厚生省の官僚のときの実体験からみた「生存権」規定の重み、朝日訴訟から21世紀の今日に至る生存権にかかわる訴訟の変遷、特にいまは生存権の具体的な中身をその目線を、立岩氏と同様に「上に」目指すものでなければならない、とする主張は共感する。

 ただし岡本氏の部分は中味が乏しく、人選ミスだったろう。読み飛ばして差し支えない。むしろ尾藤氏の発言をより充実させるべきだったと思う。

生存権―いまを生きるあなたに

生存権―いまを生きるあなたに