「アベノミクスで株価が上がっても内部留保にまわるだけ」的発言は単なる思考停止(関連メモ)

 しばしば「アベノミクスで株価が上昇して大企業がそれで儲かっても内部留保に回すだけ」というような理屈をネットなどでみかける。しかしそもそも内部留保は資金調達の側面での話であり、内部留保をどう利用するかの話ではなない。上のネットでよく見かける話は、あたかも内部留保をすることが問題であるかのように思考停止してしまっている。

 例えばデフレ脱却の局面においては、企業は内部留保によって設備投資を増加させることが考えられる。そののち相当時間が経過してから銀行からの借り入れを増やしていく(現実にも銀行の貸出は増え始めている)。この点は我々は10数年前から著作などで指摘してきたことである*1。理由は簡単で内部留保を活用する方が、外部ファイナンス(銀行からの借り入れ)よりも割安だからだ。

 さて「内部留保にまわるだけ」というのが特段に悪いことでも異常なことでもない。あたかもそれが企業内部で死蔵してしまい国民経済に一切まわってこないようなイメージがつくられている。まったく奇奇怪怪としかいいようがない。

 ところで簡単にググった範囲で以下のような内部留保についての主にアベノミクス開始以前の様相を分析したレポートがありわかりやすいので以下に。

https://www.mof.go.jp/pri/research/special_report/f01_2014_03.pdf

 このレポートはアベノミクス以降の流れまで分析をしているわけではないが、簡単に方向性は書いている。
内部留保が蓄積されているのは、日本企業の利益配分に変化がみられることが推測される。具体的な利益配分先として考えられるのは、株主に対する配当金での還元や更なる利益の獲得を目的とした設備の増強(設備投資)、従業員に対する賃金や賞与での還元及び自己資本の強化などを目的とした内部留保への積み増しが考えられる」

また最近の法人企業統計の年報、季報は以下のサイトをチェックしてほしい。

http://www.mof.go.jp/pri/reference/ssc/results/index.htm

直近だと内部留保(利益剰余金)は全産業でみると総額は増加している(対前年比もプラスだがその値は減少傾向)。問題はこの利益剰余金の使途である。消費税増税以降、設備投資は不安定化している(悲観は禁物)。また他方で一時金や賃上げなどは増加している。また配当などは固定的に推移している。またアベノミクス以前は上記のレポートにもあるように、円高傾向をうけて海外への会社移転などに使われていたが現状ではそうとはいえない。

Reading:ことしの賃上げ 平成11年以降で最高 NHKニュース http://nhk.jp/N4MW4Kgj
中国からの生産拠点国内回帰の動きと円安効果 http://d.hatena.ne.jp/tanakahidetomi/20150107#p1

 繰り返すが「株価が上がっても内部留保にまわるだけ」という思考停止はよくない。

平成大停滞と昭和恐慌~プラクティカル経済学入門 (NHKブックス)

平成大停滞と昭和恐慌~プラクティカル経済学入門 (NHKブックス)

*1:田中秀臣安達誠司『平成大停滞と昭和恐慌』NHK出版、2003年等