最近の預貸率低下はリフレ政策が「効果がない」ことが原因なのか?

 これも経済学史学会の関東部会での平井俊顕さんの指摘で、たぶん「客観的に」預貸率の低下を指摘したのだと思うが、この低下傾向は東京商工リサーチのレポート(https://www.tsr-net.co.jp/news/analysis/20150917_01.html)にもあるように六年連続である。

 (平井さんがそうであるかはわからないが)しばしばリフレ政策への批判として、「銀行の貸出が伸びていない(=だから企業の設備投資などが低迷したまま)」という発言を目にする。一見すると最もらしい批判のように思えるが、この種の「銀行貸出が伸びてないのでリフレ政策は効果なし」仮説は、それこそこの10数年何度も目にしてきた。批判者はおそらくリフレ政策をろくに考えていないのではないだろうか? 

 なぜならば、リフレ政策を主張している多くの本(そこにはもちろん私のものも含む)では、デフレ脱却の局面(つまりアベノミクス開始から今日まで)では、予想インフレ率やインフレ率自体の上昇によって、企業のバランスシートの資産が増加し、他方で実質負債が低下する。このバランスシート効果などをきっかけにして企業はまず自己資金での投資活動を活発化させるので、銀行からの借り入れはデフレ脱却過程の後半から脱却後に本格化していく(貸出増加が顕著になるには昭和恐慌のときは数年かかった)、と繰り返し主張してきたからだ。

 今回も類似の現象が起きている可能性が大きい(他方で消費増税が景況回復を引っ張っている事実も「客観的」にみておく必要があるのはいうまでもない)。上記に参照した東京商工リサーチでも、「銀行114行の総貸出金残高が、496兆7,320億3,100万円(前年同期比4.6%増)だったのに対し、総預金残高(譲渡性預金を含む)は733兆3,091億5,700万円(同4.8%増)で、預金総額が貸出金の伸びを上回った。これは、上場企業を中心とした好調な業績を背景に手元資金を厚くする企業が多いことに加えて、株価上昇による株式売却益や、賃上げなどの影響による個人預金の増加も要因にある」と解説されている。

預貸率の低下は、アベノミクス開始以降は、1)上場企業中心の企業業績が好調で自己資金などでファイナンスしていて銀行貸出に依存度が低い、2)企業、個人が景気がよくなって貯金を多くするようになっている、3)他方で、(2)の一部の要因ともからむが、消費や投資を本格化する動きが消費増税で抑制されている可能性が大きい、などが預貸率の低下に寄与しているのだろう。

 ちなみに冒頭の部会では、若田部昌澄さんが「銀行の貸出は伸びている」というむねコメントがあった。貸出は本格化していないが、着実に増加している。このこともリフレ政策のデフレ脱却効果があることの証左ではなかろうか? ぜひ「客観的」におさえておきたいところである。

デフレ脱却と銀行の貸出の関係は私の関係した書籍では以下に解説があるので参照されたい。

平成大停滞と昭和恐慌~プラクティカル経済学入門 (NHKブックス)

平成大停滞と昭和恐慌~プラクティカル経済学入門 (NHKブックス)

昭和恐慌の研究

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