岩田温『平和の敵 偽りの立憲主義』

 岩田温さんの最新著は安保法制問題を主軸にして、日本の立憲主義を巡る議論の自己欺瞞性、そして日本の安全保障について率直で明快な議論を展開している。

 題名の「偽りの立憲主義」とは以下のような主張を指す。

「奇妙なのは、自衛隊は「違憲だ」と認識しながら、「自衛隊の存在によって、立憲主義が覆される!」と主著王することもなく、「集団的自衛権の限定的な行使容認によって、立憲主義が覆される!」と主張する人々だ。彼らは奇妙というよりも、偽りの立憲主義者だ」(132頁)。

 このような主張をする憲法学者、マスコミ、言論人は数多い。彼らは首尾一貫していないのだ。それを実は認識もしているが、それを偽っている=隠している、といえよう。

 岩田さんの本では、近代的立憲主義は、法の支配とバーリン的な意味での消極的リベラリズムにたつ。安倍政権の下での安保法制は、両者の意味で立憲主義に反することはない、というのが岩田さんの立場であろう。僕もその主張を支持する(詳しくは拙編著『「30万人都市」が日本を救う!』の「集団的自衛権の経済学」参照)。

 むしろ「立憲主義」を持ち出して安保法制を立憲主義に反するという人たちの多くに共通する、恣意的な「法の支配」つまりは日本国憲法の手前勝手な利用の欺瞞性こそが問題なのだ。

 岩田さんの論述の多くは政治学の古典を背景にしたものが多く、また実証的な側面を有している。本書を読めば異なる立場の人間でも得るものは多いだろう。日本の憲法論議や安全保障についてありきたりの議論ではないものを求める人たちに広く一読をおススメする。

平和の敵 偽りの立憲主義

平和の敵 偽りの立憲主義

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自由論

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