姫乃たま『潜行 地下アイドルの人に言えない生活』

 中森明夫さんの推薦をきいてすぐに購入即時読了。もっと丁寧なレビューがでてくるだろうから、簡単に書くと1)文章に個性がある、特に「地下アイドルの耳の痛い話」まで。2)対談は正直余分だが、ゆっふいーとのものはアイドルの将来を考える上で示唆的、3)アイドルの具体名を事実上ほとんど書かず無名性の世界として地下アイドルの世界を描いた構想は、アイドルの世界そのものがそもそも無名の仮構でもあるという現実とも重なり、うまいな、と思った、4)後半はやや文体などが平板。まだ一冊の本を書ききる体力がない、5)一般の読者がもし読んだらやはり用語解説がいるところが多いかな、という印象。この世界を多少知っていればむろん問題ない。

 特に本書で注目したのは、1)の姫乃氏の文章の特性。実に個性的で、文節ごとに「小さな毬」がころころ回転するような文体。その「小さな毬」がころころいくつも回転し、ひとつのエッセイ全体を不可思議な回転体にしている。おそらく文章に心血を削ってかいているのだろう。ムダ書きができない人なんだな、と。ただし他方で生きるためにある程度の量産もしているはずだから、そのバランスが狂わないか心配(僕がしてもなんだが)ではある。この「小さな毬」をいくつもころがすかのような文体、幻惑的な世界につながるものは、この人のこれからの大きな可能性であるに違いない。本性は幻想作家。現実を違う視点―幻視ーでみることができる。その意味ではアイドルというユートピアディストピア)を物語作家であり、サドやフーリエなどにつながる資質がありそうである。ともかく簡単にいうと、文体がいい。

潜行~地下アイドルの人に言えない生活

潜行~地下アイドルの人に言えない生活