「山口小夜子 未来を着る人|東京都現代美術館」に行く

 楽しみにしていた山口小夜子の回顧展。とても充実した展示で長時間滞在しても退屈しない。会期中にまた行きたいぐらいだ。山口小夜子の人生を年代順に紹介しつつ、国際的なモデルとしての活動、資生堂とのタイアップ、様々なアンダーグラウンドや先鋭的な諸芸術とのコラボなど核になる仕事は一括して紹介するなど十分に練られた企画だ。上映されている映像資料も豊富で見飽きない。特に70年代、80年代と低成長期ながらまだ日本が十分に活力のあった時代の仕事は、やはりいまでは実現できないような贅沢さ、意欲がわかる。

 展覧会目録に掲載されてる藪前知子氏の論説には、山口が「日本とは何か」というテーマに様々な角度から挑戦してきたと分析している。展示にもそのようなテーマの一貫性があり、私見では今回の展示に見られる「日本」とは越境と雑種という二つの活動であった。21世紀の山口の活動が意味するものを考察することで、同時代的には歪んだナショナリズムへの対抗軸として機能し得る可能性があるのではないだろうか? 

 経済学からはやはりタイラー・コーエンの文化的多様性の議論と照らし合わせてながら展示物を追っていた。

 最後の部屋での「影向」の映像作品は山口の最後に近い成果だが、余韻が残る傑作だ。谷崎潤一郎の『陰翳礼讃』を読みながら独特な映像と「着る人」となった山口の姿が美しく闇の中に消え去る。

http://www.mot-art-museum.jp/exhibition/sayokoyamaguchi.html