古谷経衡(&対談者奥田愛基)『愛国ってなんだ 民族・郷土・戦争』

 安倍晋三首相の『美しい国へ』を丁寧に読解することで、安倍首相の国家観・政治に対する姿勢の評価すべき点と問題点を丁寧に論じた冒頭は、いかにも古谷さんらしい「実際にそのものを検証する、見に行く」という姿勢がはっきり表れている。本書全体のキーワードは「普通」「リア充」である。安倍首相も「普通のおっさん」的な良識とまた浅薄な歴史・国家観をもっているともみなす。と同時に奥田氏との対談も含めて本書では(両者の経済への見方はわかる部分もあるが)基本的に、安倍政権への経済政策への評価はないに等しいのが残念である。

 例えば自民党は本書にあるように「新自由主義」的傾向があるかもしれないが、実際の安倍政権の経済政策の大半は欧米リベラルそのものである。ここらへんの評価をきちんとすることが、古谷さんや奥田氏にも求められているのではないだろうか? つまりは経済政策そのものの評価をしないでは、いまの日本と自公政権自体の評価も難しいと思う。

 と厳しい?注文をつけたのだが、本書は古谷さんの軽快な文章とトーク、奥田氏とのリア充をめぐる本書の最後部でのやりとりなど興味深い内容になっている。必ずしも政治をテーマにしているわけではない。むしろ30代と20代、すでに10歳は差がある世代間の対話として読むと非常に面白い。またふたりとも「活動家」であり、口も出すが、動きも早く、また時代のカルチャーを率先して自分達の活動に取り入れていることも特徴だ。かって古谷さんが保守系メディアやその取り巻きたちの中で生きずらそうにしていたが、そこから脱することで今の個性的でいきいきした党派によらない活動に発展することができた。その脱出Exitゆえ、自身の言論の責任がましてきた。奥田氏にも同様な動きがでてくれば将来面白いなと思う。

また奥田氏が引用していた大澤茉実氏の「SEALDsの周辺からー保守性のなかの革新性」『現代思想 安保法案を問う』は以前読んでいて、これはしばしば古谷さんが保守系の人たちにいっているマトリックス史観とまったく同類型だと思う。覚醒とゲンジツ認識の仕方も同じだ。ゲンジツ認識ー独裁政権と戦争法案、それによって日常の惰眠から目覚めて戦うネオ的姿勢。スタイルの洗練さや、サブカルチャーの受容で柔軟性がある点でSEALDsは「保守系」と違うかもしれないが、傍観者つまり「普通の人」からみれば大差ない。そこを古谷さんの本は指摘しているのだろう。

愛国ってなんだ 民族・郷土・戦争 (PHP新書)

愛国ってなんだ 民族・郷土・戦争 (PHP新書)