早川三代治とピケティ

 twitterでつぶやいたことをまとめただけ。
 もしピケティブームをうけて、日本経済思想史から「経済格差」問題を振り返るときに重要な人物はといえば、早川三代治。パレート法則を日本各地の所得分布で検証しようとした実績や、パレートやワルラスの数理経済学の日本への導入者として有名。近年では僕はまだ読んでないけど中公から文学書も復刻。

 早川三代治の経済学的主著は、いまは国立国会図書館のデジタルライブラリーですぐ読めるのがありがたい。早稲田で学位をとってるのに早稲田図書館にはほとんど蔵書がない。『パレート数学的経済均衡理論』『純理経済学序論』『レオン・ワルラアス純粋経済学入門』。二番目以外は翻訳ベースのもの。

 ピケティの『21世紀の資本』ではバルザックゴリオ爺さん』が経済格差の歴史的資料の一部として利用されているが、早川三代治は北海道の所得分布を調査する過程で文芸大作「土と人」シリーズを構想した。『地飢ゆ―土と人〈第5部〉』 http://www.amazon.co.jp/dp/4895143821 の一番古いレビュー(いまはひとつしかないけど将来の念為)参照。

 早川三代治自身はその主著『純理経済学序論』にあるように数学的方法の利用こそ経済学を科学的方法たらしめると強い信念を抱いていた。またパレート法則の援用による「北海道の所得分布」では統計的方法を駆使して実証している。他方でこのような数理的・統計的方法だけでは拾い切れないものを意識した。

 そのような数理的・統計的方法のみでは分析しきれないもの、またはそれと補完的なものとしてこの「土と人」シリーズは考案されたのではないだろうか? 数理的・統計的方法と文学的方法(歴史的視野を含めた)の総合として、早川三代治の業績はいまだに研究的に未踏の地を行っている。

 ピケティみたいな日本の現状分析にストレートには結び付かないものには飛びつくのに、自分達の祖先(というほど古い人じゃないけどw)や半世紀ほど前の日本の経済格差ネタにはまるで反応しない連中。そういう人がピケティブームを支えてる 笑

戦前の早川の統計分析への評価は以下を参照。
寺崎康博(1986)「戦前期の所得分布の変動:展望」http://naosite.lb.nagasaki-u.ac.jp/dspace/bitstream/10069/15214/1/kyoyoJ26_02_02_t.pdf

地飢ゆ―土と人〈第5部〉

地飢ゆ―土と人〈第5部〉

純粋経済学入門 (1931年) (理論経済学叢書〈第2編〉)

純粋経済学入門 (1931年) (理論経済学叢書〈第2編〉)

上久保敏氏が早川の簡単な業績紹介を以下の本で書いている。

日本の経済学を築いた五十人―ノン・マルクス経済学者の足跡

日本の経済学を築いた五十人―ノン・マルクス経済学者の足跡