連合の新年会に黒田東彦日本銀行総裁、そして確認できるところでは岩田規久男副総裁も出席した。またこれは報道されているように経団連の榊原定征会長も出席した。これは連合発足以降はじめての出来事である。
賃上げにらむ? 連合新年会に日銀総裁、経団連会長出席
http://news.goo.ne.jp/article/asahi/business/ASH154VD8H15ULFA00T.html
上記にリンクした朝日新聞の記事だと、「賃上げ」のために政労使の協調を演出する狙いのように解釈されている。しかしこの記者の認識には、日本ならではのバイアスがある。
まず「雇用の最大化」つまりは事実上の完全雇用を達成することに責務をもつのは、大概の中央銀行の役目といっていい。中には法制化されているところもあるし、いまの日本でも議論され始めている点でもある。例えば、日本銀行は2014年以降、急ピッチで内部スタッフが雇用と金融政策の関連を積極的に研究しているように思えるのは、この「雇用の最大化に責任を持つ普通の中央銀行」にむけての当たり前の姿勢の反映だろう。白川前総裁時期には見られない意識の変化だと僕は注目している。
今回、総裁と副総裁たちが連合の新年会に初めて出席したのは、明らかにこの黒田日銀における意識の変化の反映だろう。ただし記事にあるように、「賃上げ」が目的とは考えがたい。
一般に誤解されているが、日本銀行の設定しているインフレ目標2%はあくまで「中間目標」であり、これ自体が政策のゴールではない。日本銀行はインフレ目標を達成しそれを安定化さえることで、雇用、経済成長率などの「実体経済」を安定化させることが「目標」なのである。金融政策の最終的な成果の判定は、例えば実質GDPや実質GDP成長率、その雇用での反映で評価されるべきものである。
この一連の「中間目標」−「目標」のなかで、「賃上げ」自体は現状の日本経済においては、むしろ雇用最大化を達成する過程で生じる一現象にしかすぎない。言い換えれば、日本銀行が責任を持って操作可能な政策変数ではない。これは多くの中央銀行も同様の認識を持っているだろう。
もちろん政労使が協調してそれぞれがそれぞれの役割を分担することで、デフレ脱却することは可能である。そのことと日本銀行が「賃上げ」を政策目的かのようにふるまっているわけではない、ことを上記の記者は知るべきではないだろうか。その上で、雇用について責任と関心をもつのは少しもおかしくないことを理解するべきである。