片岡剛士「アベノミクス以後の日本経済」in『環』2014年秋号(59号)

 日本経済の現状と問題点を明瞭に分析した好論説です。現状のGDPの大幅な落ち込みの原因を、1)消費増税の反動減、2)増税がもたらす物価上昇による実質所得の低下 でおさえます。両方ともに深刻ですが、後者は特に恒常的な実質所得の低下という意味でより深刻なものがあります。こうした実質所得の低下は、非耐久消費財やサービス消費の落込みを中心に、民間消費を冷え込ませます。他方で投資や輸出も不安定です。そのため片岡さんは簡単な試算で、日銀や政府の実質GDP成長率の見通しが甘いことを指摘しています(ただし本稿の後に日銀は見通しを下方修正してそれによって追加緩和をしました)。また名目成長率が落ち込むと政府のもくろみ通りのプライマリーバランスの改善も2014年、15年と厳しくなり、それは「財政再建」の実現を困難にするとしています。増税が「財政再建」を目的としているのにむしろ増税ゆえに「財政再建」が難しくなるという、私たちからすれば当たり前な事態が(政府とは異なり)進行中です。片岡さんはリフレ・レジーム(アベノミクス・マークⅡ)として、政府と日銀の「政策協定」とそれによる追加緩和(これは上にも書きましたが、量的にも片岡さんの提案とほぼ同じ規模が実行されました)と政府のなによりも消費再増税の停止、社会保障の改善などが重要であると強調されています。日銀の追加緩和が実現したことで、片岡論説でも政府にいまやその政策判断ーレジーム転換Ⅱ−の責務が生じていると思います。