藤田菜々子「スウェーデン・モデルとミュルダールの経済思想ー福祉・経済・価値規範ー」『比較経済体制研究』20号

 藤田さんから頂戴しました。スウェーデンモデルを普遍主義的福祉政策、連帯的賃金政策、積極的労働政策の3点からその形成史と変容に、どのようにミュルダールが関与していったのかを中心にまとめた論文です。スウェーデンの戦前から現在までにかけての経済社会モデルの構築がよくわかってその意味でも便利な論文ですね。こういう学術論文も掲載誌がわかれば町の図書館でもコピーサービスなどをうけられますのでぜひ利用して読んでください。

 藤田さんの既刊の論著でも書かれているミュルダールの人口減少対策についての考えも面白いですね。人口減少デフレ説めいたところには留保がありますが、1)出生率低下は女性の育児と労働の両立不可能性⇒「消費の社会化」で対処、2)人口減少は貧困と需要不足のリスクを増す⇒消費の社会化で対処、3)消費の社会化のコアは長期的な人的資本(若年層)への積極的投資⇒労働生産性の向上。

 戦後のレーン=メイナードモデルの採用過程とその内容もよくわかって個人的にとても便利ですね。戦後のさまざまな経験を経て、ミュルダールの立場が『福祉国家を超えて』の段階では、以前の官僚主義的な上からの改革志向から、「ボトムアップ型の多層的ガバナンスをあるべき福祉国家像」と考えてきたり、「福祉世界」論を展開していく思想的変容が、当時のスウェーデン社会の推移と比較されてわかりやすく説明されています。

ミュルダールの経済学―福祉国家から福祉世界へ

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グンナー・ミュルダール ある知識人の生涯 (経済学の偉大な思想家たち)

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