杉原志啓&富岡幸一郎(編著)『稀代のジャーナリスト 徳富蘇峰 1863-1957』

 徳富蘇峰の現代的意義を考える意味では最適のガイドブックといっていい。いまでも僕の周囲をみただけでも、徳富蘇峰の初期の著作(平民主義を唱えた時期のもの)には一定の評価を下すものの、その他の「大日本主義」的な発言、政治や言論界での「体制側」のフィクサー的イメージ、敗戦によるA級戦犯指定などから、徳富はおおむね多少の言及はあっても、オールスルーが基本であった。もちろんここ数年の徳富ブーム(講談社での終戦後日記の連続出版など)とでもいうべき現象もあったが、専門家中心に徳富への温度は低いままだ。杉原氏によれば徳富研究の大半がいまだ明治期、特に日清戦争以前の徳富に焦点があてられ、戦後も含めて95年にわたる徳富の全業績をみすえた研究は少数派であるという指摘が客観的にその低温度を伝えている。

 徳富の全体像を現代的意義(国際関係、憲法天皇制など)を通じて再考することがとても刺激的で、多くの人々に益になることを示したことが本書のいいところだ。杉原志啓さんの「徳富蘇峰の全体像」「蘇峰と現代」、坂本多加雄徳富蘇峰と戦後日本」、そして杉原・富岡幸一郎・新保祐司の「いま、なぜ徳富蘇峰か」の杉原・富岡発言を拾い読むことが、“徳富と現代”をストレートに考えるうえで最適な選択だろう。

 これらの論説を読み、いくつかの徳富の著作を読んだうえで、読者は、『環』52号収録の倉山満さんと宮脇順子さんとの対談を再読すると徳富的な史観をさらに現代的な文脈から批判的に読み返すことができるだろう。

稀代のジャーナリスト・徳富蘇峰 1863-1957

稀代のジャーナリスト・徳富蘇峰 1863-1957