切手収集と経済学

切手収集を45年ぶりぐらいに再開して、一年経過した。切手収集は大人の教養を深める趣味なんだな、とこの一年で再確認している。

 

一年前は、母親が集めていた切手を再収集することがまず最初にあったのだが、杉原四郎先生の没後10周年ということもあり、切手収集と経済学を連動させてこの一年は集めていた。

 

すでに下のエントリーに動機づけの面は書いたのでそれを参照してもらって、ここでは最近の収集の進展を。

切手収集と経済学者:個人的回想と私的読書ガイド - Economics Lovers Live 田中秀臣のブログ

 

この一年では切手をめぐる論説を一つ、対談をひとつ、そして学会報告を一件した。なかなか初心者にしては大胆である 笑。

論説「切手と国家戦略の経済学」by田中秀臣『電気と工事』11月号 - Economics Lovers Live 田中秀臣のブログ

「切手で読む金王朝 北は統一を望んでいない」(内藤陽介&田中秀臣)in月刊『WiLL』6月号 - Economics Lovers Live 田中秀臣のブログ

経済学史学会報告「マルクス、レーニンの切手とプロパガンダ」の報告要旨と参考文献 - Economics Lovers Live 田中秀臣のブログ

 

1)母親の遺品を再収集する試みは、怠けていてもう少しかかる。状態のいい日本切手をなかなか見つからないものがある。

 

2)日本の浮世絵切手については、稲垣進一氏の『日本浮世絵切手総図鑑』(日本郵趣出版)をもとにしているが、これもさぼり気味でまだ半分くらい。海外の浮世絵切手はほとんど集めてなくて、ブータンとかギニアとかわずかな国しかない。世界の浮世絵切手については、森下幹夫氏の「世界の浮世絵切手」「続・世界の浮世絵手」(それぞれ『切手の博物館 研究紀要』7,8号掲載)があるが、あいかわらず立ち読みした程度で本腰をいれては読んでいない。

 

3)杉原四郎先生が著作などで紹介したものや、また切手の図柄を著作に掲載したものは完全に集めた。『切手の思想家』(未来社)に画像が掲載されているものは完全に集めた。これもなかなか集めるのが大変だった。価格は大したことはないのだが、探す機会費用が大きい。またマルクスエンゲルスの切手などを杉原先生は著作・編著などに掲載していたが、僕が集めきっていなかったアルバニアエンゲルス切手も最近手元に届いた。

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あとは杉原先生の関心領域だった蝶の切手についても理解を深めたい。参考書は次の二冊を購入してみた。世界には当たり前だが蝶切手はかなりある。

ミッヘルの蝶切手カタログ。つい数年前のものまで完全収録していて図表もカラーで便利。

日本語で読める蝶切手の本。かなり昔のだが、ここらへんの時代までが実は杉原四郎先生の関心範囲かも。蝶切手も僕の場合は、経済学者の関心の範囲内で興味を持っているというかなり歪んだ(笑)興味の持ち方だ。

蝶の切手 (講談社文庫)

蝶の切手 (講談社文庫)

 

 JPS昆虫切手部会の選んだ昆虫切手ベスト50.ただしほとんど蝶切手。

yushu.or.jp/info/academic/BEST50pdf/Kontyu50.pdf

杉原四郎先生の切手に関する書籍に収録されてない短文は以下にまとめたが、ここでもまだ蝶切手関係のものは探してない。これも近いうちに穴埋め必要なもの。

杉原四郎の切手論説メモ - Economics Lovers Live 田中秀臣のブログ

この杉原先生の短文の中では、浮谷敏夫「文学切手散歩」が未読。これも近日中に読んでみたい。

 

杉原先生は国別では、アイルランド、トルコ、北朝鮮の切手に特に興味を持っていたようだ。それぞれの国の切手はやはり独特の味わいがある。北朝鮮切手は、内藤陽介さんの影響もありそこそこ集めている。最近のものは北朝鮮から日本への輸入が規制されているので入手が困難である。

 

4)学会で上記の発表をしてフロアーからの質問で多かったのが、貨幣との関連。これについては、技術面、経済的側面、そして図柄の観点からこれからも検討していきたい。学会の席上で話題になった経済学者の図柄の入った紙幣は、イギリスの旧20ポンド紙幣のアダム・スミスオーストリアの旧通貨単位の紙幣でのオイゲン・フォン・ベーム=バヴェルク、それとフェイク紙幣のカール・マルクスの0ユーロ紙幣などである。

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貨幣と切手の技術的側面については、『切手の博物館 紀要』の「郵便切手と銀行券の技術の交流 」植村峻、が手元にある。それと経済的側面は、通貨発行益と関連させて切手発行益を定義した上記の僕の論説がある。

 

5)カール・マルクス切手の進展

マルクス切手はすでにこのブログでも書いたが、切手そのものは完全に収集している(参照)。いまはエンタイア類やマルクス切手に関連するものを集めている。マルクス切手と経済学者の関係は、鈴木鴻一郎氏に始まるが、最近ではもっとも精力的なのは、海外のH.ヒューブナー氏は完全収集しているとのことだが、僕も現状ではそれに追いついたわけである。マルクス切手については展示できるものにしようと考えている。以下の本をとりあえず買ったり、最近の展示会ではちゃんとチェックしたり地味な努力をしている 笑。

競争切手展に出品するリーフの作り方 テーマティクコレクション編

競争切手展に出品するリーフの作り方 テーマティクコレクション編

 

マルクス切手で最後に手元に届いたものは以下。ルーマニアの1945年に出たもの。単片では目打ちあり、目打ちなしともにかなり初めから所持していたが、この小型シートだけは最後までかかった。マルクスのほかにレーニンエンゲルスも出ている。

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マルクス自身が出した封書がどんなものだったのか、先のヒュブナー氏らは著作の中で一件ほど画像を紹介している。日本にはマルクスの書簡が数点あるようだが、切手までには関心は誰もいってない 笑。検索してみると以下の画像をみつけた。マルクスがイギリス滞在時に出した手紙だろう。いわゆるペニーレッドが貼ってある。僕も保有しているが、もちろん無名の人の封書であり市価で数千円程度だった。マルクスのものだと、オークションにでてくれば数千万円はするので、マルクスのプレミアムはかなりのものだとわかる。資本主義経済こそマルクスの価値を最も見出しているとしたら皮肉かな? 笑。

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6)レーニン切手の進展

世界でどれくらいのレーニン切手がでているか、まだ全貌をきちんと把握していない。たぶん800枚ぐらいかな、という印象。いろんなヴァリエーションを含んでこれくらいかな、と思う。個人的には、この一年でエンタイアも含めてかなりコレクションも充実してきた。学会報告をベースにしてマルクスレーニンの切手の政治的利用の側面の研究をさらに充実させていきたい。画像はインドで出たレーニン切手の初日カバー。インドからはレーニンの切手はこれだけ。マルクスも一枚だけ出ている。

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7)ゼネラリスト的なもの

その国の切手だとざっと集める、という方針(ゼネラリストとかいうらしい)のものもある。杉原四郎先生が関心をもった国を契機にして、北朝鮮の切手。最近はひと段落していてさぼりぎみ。他にマルクス切手を出している関係で、なかなか手にはいらず、モザンビークのパケットを何種類か買ってしまい、そこから同国の切手を集めている。ただ21世紀から同国は濫発切手国として知られていて、とてもではないが21世紀に発行された切手を集めきることは資金的にもハードルが高い。脇村義太郎の『趣味の価値』で注目されていたエジプトの切手はかなり収集している。ここらへんはまだ集めるうだけで何か語るべきものを持ってはいない。

 脇村の本はかなり面白くて、石油切手や美術切手などをこれを足場にして集めているが、そのうち鈴木鴻一郎、脇村義太郎、杉原四郎の三氏の経済学と切手をテーマにして何か展示物でもつくりたいという願望があるw。

 

一年経過してだいたいこんなものである。