マルクス切手、杉原四郎先生、そして世界の経済学者の肖像切手など

マルクス生誕200年を記念する切手が、中国、ドイツ、ロシア、ベトナムで今年出ていて、それについて簡単に感想を書いた。ところでベトナムのだけは未入手だったが切手商に入荷したので無事に手に入れることができた。(付記)内藤陽介さんから他にカナダ、キルギスルクセンブルクからも出ているとご教示頂いた。先のブログの記事も含めて訂正しておきます。

 

杉原四郎先生が『読書颯々』(未来社、1987)の1983年のエッセイでは、マルクス切手の数を200以上と書いているので、そのときからソ連・東欧の社会主義国が崩壊したことも考えると、推測で250ぐらいでているとしよう。1968年で鈴木鴻一郎によるとマルクス切手は117枚ほどでているので、15年で83枚ほどの増加。今書いた社会の変動をいれて増加率が半減したとして、この35年で50数枚ぐらい増えてるとしてもあながち間違いではないような気がする。正確には切手カタログでチェックすべきかもしれないが、いまはその余裕はない。

 

いま僕の手元にはマルクス切手はせいぜい50枚ほどで、最近ちょっと熱にうかれて収集を加速したのであと何枚か増える予定である。海外でのオークションまで利用できるので鈴木、杉原時代に比べると格段に集めやすい。またその分、競争も可視化されていてどの分野が人気なのかもわかる。マルクスカリカチュアを集めた書籍も届いてみているがなかなか面白い。これについてはまた機会をあらためて書く。

 

杉原四郎先生といえば『切手の思想家』(1992、未来社)が出ているが、人物切手の収集でも著名である。この中にも経済学者の切手は、マルクス以外にも何人か収録されている。ただしアダム・スミスケインズなどは切手として出されていない。この点は前回もすこし触れた。

 

人物切手にも変遷があるようで、三井高陽『切手の鑑賞<人物篇>』(社会思想社、1958)によれば、世界最初の切手は英国女王の肖像であり、主権者、王・貴族などがその主要モチーフだったが、年を経るにしたがって自国の偉人、軍人、政治家になり、やがて自国の芸術家、文化人、そして他国の偉人へと“国際化”していっているらしい。いまでもその傾向は同じだが、なぜか経済学者だけは見事に忘れられてしまっている。思想家・哲学者は人気ではある。もっとも経済学者だけではなく政治学社会学なども人気はあまりなさそうである。

 

杉原四郎先生の書籍以降に発行されたり、同書に未収録であった経済学者の切手で、僕が持っているものを掲示しておく。

 

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上からフリードリッヒ・リスト(西独、1989 杉原(1992)には東独発行のリスト切手が掲載)、ピエトロ・ヴェッリ(イタリア、1997)、ヴァルター・オイケン(ドイツ、1991)、ラグナー・ヌルクセ(エストニア、2007)、そして最後にはローザ・ルクセンブルクとカール・リープクネヒト(東ドイツ、1971、杉原(1992)には別な東ドイツ発行のものが掲載)である。

 

最後のローザとカールのコンビ切手はいくつかでているので珍しくはない。またこのふたりは経済学者というよりも実践家である。ローザには経済学的な著作が豊かではあるのはもちろんではあるが。

 

この中では、やはりイタリアの経済学史をやらないと知らないであろうヴェッリのものが出ているのが目をひく。ただ彼は経済学だけではなくイタリアの啓蒙主義者として文化人枠としてのエントリーであろう。

 

その意味で純粋に経済学者といっていいのはオイケンとヌルクセである。オイケンはオルド自由主義の経済学者の代表である。その経済思想は今日のドイツの経済政策にも影響を深く与えているだろう。またヌルクセが出ているのも際立つ珍しさだ。ヌルクセはエストニア出身だが、母国を離れてイギリス、オーストリア、そして米国で研究生活を送った。国際貿易、国際金融の貢献の他に、開発経済学の歴史の中で重要な貢献をしている。

 

この他にマイナーといっては申し訳ないが、その国々では有名だがいまいち国際的には知られていない経済学者が何人か肖像切手になっている。それらの人たちについても機会があれば紹介したい。

 

(付記)オランダとドミニカからそれぞれヤン・ティンバーゲンの切手が出ている。未入手。

 

 

切手の思想家

切手の思想家

 

 

 

読書颯々

読書颯々

 

 

 

切手の鑑賞人物篇 (1958年) (現代教養文庫)

切手の鑑賞人物篇 (1958年) (現代教養文庫)